第6話 マンデラーなフォロワーたち

 『かりん……?て、誰?自分、初めて聞いたけど』

 AYAとしてSNSを使う時は、綾人は「俺」を使わずに「自分」を使用していた。男女どちらでもお好きなように受け取って下さい、という意味で。


 『……分かった。DM(ダイレクトメール)の方に送る。ってAYA!DMいつ閉じた?開けといてくれよう!』


 綾人はSNSではDMを使わないようにしていた。どこから「男」だと見破られるか分からないからだ。リア友のフォロワーたちもいたが、彼らは綾人の気持ちを汲んで、大事な話はツールを変えて用を足していた。

 『えっ?自分、使ったことないよ?どうすれば使える?』

 というか、出来ることなら開放したくはない「自分、AYA」がいるのだ。


 『……あ、やっぱり俺か。俺がシフトしたのか……またかよ……本当にAYA、かりんを知らないのか?』

 『うん。今、初めて聞いたよ?』

 それよりも、「」とはどういう意味だろう。もっと不思議なのは、何故あまり絡まない人がこうもなれなれしいというかフレンドリー過ぎるというか、訳知りのように話しかけてくるのか……?

 すると彼は、突然意味不明な言葉を発したのである。


 『パラレルワールド、平行世界を知ってるか、いやそれよりも、信じているか?』

 『ああ、この世界と似たような世界がいくつも平行して存在する、ってアレ?』

 『そうそれ。俺さ、それを体験したらしい。俺がいた世界線では、先週あたりにAYAが呟いてたんだよ。と待ち合わせして、同じ大学のオープンキャンパスに行くつもりだ、ってさ。お互いフォローしてたら、呟いた開催日時が被ってたんで、DMで確認したら、志望校が同じだった、って言ってたんだけど?』


 『……は?』

 一般ピープルにドッキリ企画を仕掛けるの、流行ってたか?

 綾人はフォロワーたちがオカルト系や不思議系を好むのは熟知している。


 綾人は次の言葉を繫ごうとしたが、この会話が普通にタイムラインで流れたことにより、彼らのフォロワーたちが次々とリプという返事を書き連ねて来た。さすが不思議大好きなである。

 『あ、それ、知ってる!二人は会えなかったみたいよ!』

 『あーそれ、僕もタイムラインで流れたから見た見た。最近だよ。かりんのも読んだな。いろんなフォロワーに慰められてたよ』

 『お前らもマンデラーかよ!!知らんかったぞ!』 

 『だってお前、最近テンパってたじゃん!どうやって切りだそうかとタイミング計ってたんだよ……類友?』

 『あたし、この前かりんのがっかりした呟き見たのが最後なんだけど……SNSやめたのかな?それとも鍵垢にしたのかな?フォロー外れちゃってるの。AYAとは外れてないけど、こっちのAYAじゃないみたいなんだけど……ね、誰がの?あたし?』


 綾人はフォロワーたちのリプを凝視した。いつか兄の尚斗に見せられた、投稿サイトで繰り広げられていたツリーの『釣り疑惑』と呼ばれる『なんちゃって体験談』ではないのか?

 当の本人を無視して、リプ合戦が行われていた。皆さんグルですか?と書き込みたい気持ちを抑えて、綾人は絶え間なく続けられている彼らの会話を何度も何度も読み返した。

 『多分、数名同時期に跳んだんだな』

 『私はAYAとかりんが、なんだか妙なスクショ貼りあいっこしてたの見たのよね……あの辺から目撃してない。ねえ、ここのみんなはアイコン変えた?プロフ変えた?』

 『最近は変えてません』

 『僕も、プロフいじってないよ。アイコンは初めから同じだよ』

 『えっ、ウソ一度変えたよね?

 あたし見たよ!イラストじゃなくて風景写真だったよ?』

 『残念、それ、この僕と違いまーす』

 『あのさ、今はAYAとかりんの話じゃなかった?君らがマンデラーだったのは良ーく分かった。多分ここのメンバー全員そうだと思うんだけど……最近のかりんの呟きを見たのいつ?AYAとやり取りしたやつ見た人いる?』

 AYAとかりんのやり取り……?綾人は、そんなに手の込んだドッキリ企画を仕掛けているのだろうか、と、疑いの目で見ていた。

 フォロワーたちの中には、リア友が数名いることは、居る。が、今、ここで会話に参加している者たちは、不思議大好きなメンバーだ。リア友は入っていない。

 お互い顔も本名も知らない。綾人のように性別を隠しているかもしれない。あるいは性別を偽っているかもしれない。

 どうしたら、この話がフェイクだと見破れるだろうか、と思っていた。

 すると、一人が叫ぶように書き込んだ。数枚のスクショ(スクリーンショット)を添付して。

 『ねえねえねえ!あたしグッジョブ!、スクショして保存してたんだよ!ホラホラ見て!AYAとかりんが自分とこのカレンダーのスクショ貼りっこしてたんだよ!うわぁ証拠品になるとは思わなかった!』

『やだ、うっそ~~~……マジ違うじゃない……サブイボもん……』

 『お?僕は初見だな!凄いスクショ貼りだね!GJGJ!さすがマンデラーだな!』


 ますます意味不明になって行く彼らの会話。証拠品として貼り付けられたスクショのスクショは、双方とも五月のカレンダーである。

 が、片方は綾人がオープンキャンパスに参加した日が日曜日で、もう片方は月曜日が振替休日となっていて、しかも日曜日の欄には「天皇誕生日」と記されている。

 実に巧妙な仕掛けだ。こんなことを誰が作業したのか。カレンダーをでっち上げて画像修正でも、と考え、こちらも証拠品としてスクショしてやる!と、スマホを操作しようとして、綾人はギクリと固まった。

 スクショ画面には、AYAとかりんのタイムラインの日時がバッチリと映り込んでいたのであった。

 もちろん、アイコンやIDもセットである。

 アイコンは微妙に自分の物とは異なっていたが、信じられないことに、IDが綾人のと全く同じであった。


 このスクショ画面もフェイク……?

 綾人は、どうやってリプしてやろうかと焦り始めた。


 不思議大好きなメンバーたちが、こうも巧みに自分を引っ掛けようとする、その意味を知りたいと思っていた。

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