第3話 警察以外で呼ぶものといえば

「俺もアイシャに会ってみたいな明日なんなら飛び入りでオフ会参加してみるか?一人くらい参加者が増えても特に問題はないし」


 いや本当は問題しかないけど。

宴会予約いれてるお店もまた連絡しなきゃいけなくなるしたぶん俺はお泊りパラダイスが不可能になるし。


「えっと、それは、ごめんなさい、できません…」


 知ってた。

断るだろうなって思ったから聞いたんだ。

アイシャは俺と知り合うまでソロプレイヤーだった。

言い方をかえるとぼっちだ。

ぼっちにいきなり知らない人が多いオフ会はハードルが高い。


「そりゃまあそうだよな、急に明日はきついか。ごめんな、唐突に無理言って」

「い、いえ私のほうこそ急に会いたいって、でも…ヴォルさんも私に会ってみたいって本当…ですか?」

「うん、実は前からそう思ってたから驚いたよ」

「そうなんだ…私だけじゃなかったんだ…よかった…」

 

 本当だよ、5分くらい前からは確実に思ってたから嘘じゃない。

とりあえず彼女が俺に好意を抱いているのは間違いなさそうだな。

これなら多少強引に言いくるめてもなんとかなるだろ。


「アイシャが良ければ、オフ会が終わった後にでも二人でゆっくり相談したいと思うんだけどどうかな?勿論、俺たちが会う予定についてさ」

「そうですね、二人でゆっくりと…わかりました!」


 よし、これでさりげなく俺がオフ会が終わるまでの自由とその後アイシャと二人きりで会う約束までもっていけた!

人は提案を一度断るとなんとなく次の提案は断りづらくなる。

だからわざわざ最初にアイシャを明日のオフ会に誘う無茶ぶりをしたのだ。


「それじゃそろそろ俺は…」


 ログアウトしなきゃいけないから、と言おうとしたところで


「おにいちゃーん!もう、なんでまだ狩りしてるのっ!」


 こちらに走りながら近づいてくるちっちゃい女の子の声が聞こえた。


「おにい…あ、アイシャちゃんと一緒だったの?」

「あ、かいわれさん…」


 フェンタジー世界ではちょっと浮いてると思える魔法少女風の姿をした小さい女の子はギルドメンバーのかいわれ。

この頭おかしい服装は魔法少女なんたらのアニメのコラボで配布されたやつだ。

俺のことをおにいちゃんと呼ぶ少女を微妙な表情で見つめるアイシャ。


「俺は同い年のおっさんのおにいちゃんじゃねえんですよ」

「おいなんでバラす」 


 ほわオンのおぞましいところに音声自動変換というのがある。

俺たちはこれまでの会話を文字でやり取りしてるわけではなく全部ボイスチャット、人の声でやり取りしている。


 俺やアイシャ…もたぶんゲームのキャラクターとそれを操作するプレイヤーの性別が一致しているから違和感はないが、かいわれの中身はおっさんなのである。


 なのにこの少女から聞こえる声はおっさんの声ではなく、普通の女の子っぽく聞こえるのだ、これタチが悪いよ。

どういう原理か知らないけどゲーム機能として自分の声の周波数を、いじって声質を無理やり変えるというネカマが歓喜したクソ機能だ。


 かいわれはこれをフルに使って本来とは似ても似つかない声を出してキャラ作りをしている。

俺のことをおにいちゃんと呼ぶのは悪意あるロールプレイだといえよう。


「かいわれさんって本当に男の人なんですか?」

 

 アイシャが不思議そうに問いかけてるのは、かいわれではなく俺。


「そうだよ、俺は実際に会ったことあるからわかるけどこの姿と同じ部分は1パーセントもないよ」

「そんなこと言うおにいちゃんは嫌いだなっ」

「キモイから普通に話せ、で、何しに来たの」


 こいつ俺が女の子といるとわざと変な妹キャラを演じてくる。

 

「何しにって…お前、明日だぞ?オフ会。なのにまだログインしてっから何やってんのか見に来たんだよ」

 

 話し方は素に戻ったが声は少女だ。


「わかってるよ、ちょうどログアウトするとこだったんだ」

「ならいいけど、お前が一番来るのに時間かかるんだから遅れるなよ」


 はいはいうるせえな、だったら開催場所を俺の近所にしてくれよ。

メンバーの大半が関東で俺だけ関西だから無理だろうけども。


「用はそれだけだな?じゃあ帰って、どうぞ」

「コイツいっつもオレに冷たいんだけどどう思うアイシャちゃん」

「え、ええと…あはは…」


 急に話を振られたアイシャはどうしていいかわからず笑ってごまかしている。


「ま、いいや、じゃオレも落ちるわ」


 本当に見に来ただけかよ。


「あ、そだ、アイシャちゃんも良かったら来てよ!女の子も結構来るから安心だよ!ヴォルに言えばなんとかしてくれっから!んじゃ、また明日なー」


 ちょ、おい、何言ってんの?

コイツの場合は完全にその場のノリだけで言ってて何も考えてない。

相手の都合とか。アイシャのことも女だと思い込んでるし。


 言うだけ言ってかいわれは消えた。


「…じゃ俺もそういうことでそろそろログアウトするな?」


 急にすぐ落ちたい気分になったのでアイシャにそう告げる。


「女の子も結構来るんですか?」

「あ、はい…まあ、ぼちぼち…」

「それってたまにヴォルさんと一緒に遊んでる子たちですか?」

「そう…ですね…」


 思ってたのと違う返事が来た。

 なんだろう、音声自動変換が壊れたかな、アイシャの声が違う気がする。


「どこの誰と会うんですか?」


 あれー、なんか怖いな。別にまだ俺たち付き合ってるとかじゃないはず。


「あの…みかん、て人がマスターしてるとこのギルドの子たちが…」

「………ああ」


 ああ、ああってなんだ。

ああそれならいいです、のああじゃないのはわかる。

 

「…やっぱり待てません」

「えっ?何が?」

「今すぐヴォルさんに会いたい」


 今すぐって…無理だろどう考えても。


「いや今すぐはその…え?住んでるとこ近いの?あれ、住所教えたことあったっけ?」

「大丈夫です、今から呼びますから」


 いや何が大丈夫?呼ぶってなに?

なぜか呼ぶって聞くと次に警察って単語が浮かんで不安な気持ちになった。


「ヴォルさんも会いたいって言ってくれたし、いいですよね」

「え、え?言ったけど…呼ぶとかの意味がわからな」

「すぐ会えますから…すぐに…ね…?」


 アイシャはにっこり笑ってそう言った。

はじめてみるとても安らかでいて狂気を感じる笑顔だった。

こんな表情までできるんだ、ほわオンすげえな…


 

 俺は意識を失った。

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