第3話 突破口

 ミカは俺の家に上がるなり「すごーい!【おちゃめぐ】がいっぱい!」と目を輝かせ、興奮して言った。

 ミカを家に連れて帰って来てしまった。完全に犯罪者確定である。ミカをうちに帰そうとしたが、ミカは「帰りたくない。もし私から逃げたら大声を出す」と言って脅されたのだ。恐るべし9歳児!そして9歳児に押し切られる情け無い20歳の俺。

 ミカはこたつに入り、躊躇なく俺の定位置に鎮座している。俺の貴重な食料である半額菓子パンを容赦なく頬張りながら、パソコンで【おちゃめぐ】ゲームで遊んでいる。俺は部屋の隅でこれまでの経緯をフジビタイに伝えた。フジビタイからすぐに返事が来た。

『プリにぃ、いつかやるとは思ってましたが、ついに、やっちゃいましたか。【おちゃめぐ】終了で傷心のあまり、つい実物に手を出しちゃいましたか』

『どういう意味だ!だから、俺が連れて来たんじゃなくて、家に入れろと脅されたんだって』

『そんな戯言信じる人間0人説』

『そこなんだよ(T ^ T)どうしたらいいんだ?』

『自首で』

『俺は被害者なんだよ!でも証明のしようがないし、客観的に見ればどう見たって加害者』

そこまで打ったところで、フジビタイからの返事は途切れた。俺はミカに近寄って鬼嫁の機嫌を伺うダメ夫のように、猫なで声で言った。

「ミカちゃん、そろそろ帰ろうか?家の人、心配してるよ」

「帰らないよ」

「じゃあさ、【おちゃめぐ】グッズ、いろいろあげるから、帰ってくれないかな?」

「グッズはもらうけど、帰らない」

もらうの確定?あなた様はジャイアンですか?怒りのボルテージが急上昇し、思わずミカの毒親にシンパシー。いや、いかんいかん。

フジビタイから再びメッセージが届いた。

『【第224条 未成年者を略取し、又は誘拐した者は、3月以上7年以下の懲役に処する】だって。くさい飯食って来い!』

八方塞がり!四面楚歌!

俺の人生詰みましたか?ギブミー執行猶予!

 ミカが遊ぶゲームのピコンピコンという音だけが、部屋に鳴り響いていた。その電子音はまるでウルトラマンのカラータイマーのように、俺がシャバで生きられる時間をカウントダウンしてるかのようだった。

 いやいや、待て待て。俺は冤罪なんだって!まだ塀の外にいさせろ。フジビタイに言っても埒があかん。コイツとは絶交だ。こういう時のためにヤフー知恵袋のコイン貯めてだんだよ。俺はヤフー知恵袋にこの腹立たしい問題を解決するベストアンサーを求めるべく、今の状況を洗いざらい書いた。ベストアンサーにはコイン500枚の褒美を遣わすとした。

 しばらくしたら、アンサーがついた。

『お巡りさ〜ん、早く逮捕してください』

『お医者さ〜ん、お注射強めでお願いします』

クソ、どいつもコイツもふざけやがって!お前ら覚えてろよ。アカウントたどって炎上させてやるからな。ん?またアンサー来た。

『その子が親から虐待されてるのに、家に帰すのはかわいそうです。子どもに泣きつかれて、一時保護したって事にしたらどうですか?明日にでも警察に連れて行けば?』

ベストアンサー確定!そうだ、これだ!パニックになって、正常な思考を失っていた。ミカが親から虐待受けてる事を思考から除外していた。リスクは伴うが、これがベストだ。

俺はゲームに夢中になっているミカの近くに行き、こう言った。

「ミカちゃん、今日はもう遅いから泊まって、明日の朝、帰ろうか」

「それでいいの?私が一晩泊まったら、タツノスケが私に何かしたと思われるよ」

知恵袋超えるベストアンサー出ました!ミカちゃんにコイン500枚。確かにそうだ、今日泊めたらダメだ。幼児誘拐、器物破損に児童への性的虐待まで加わってしまう。犯罪の特盛だよ。やはりこのままではマズい。

 ふとミカの手元を見ると、両手の甲には生々しい擦り傷がたくさんついていた。やはり、父親が捕まった後も母親から虐待されてるのか……。胸が痛くなった。そして思わず、俺の口からとんでもない提案が飛び出した。

「ミカちゃんのママに、俺からガツンと言ってやろうか?もうやめてくれって」

俺は自分でも驚いて、自分の口を塞いだ。

「いやいや、やっぱダメダメ。何言ってんだ、俺」

ミカは無言でゲームをコントローラーをこたつの上に置き、立ち上がり、俺を見てこう言った。

「私、帰る」

ヤバい、とんでもない約束しちゃったよー!

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