第12話 模擬厄体(2)

「大丈夫ですか!」


 御堂さんが俺の元へ駆け寄ってくる。


「大丈夫。かすり傷程度だよ。ありがとう。助かった」


 とりあえず見た感じ、いけない方向に曲がったりはしてないけど。超痛い。

 俺の方の一体は御堂さんのおかげで動きを停止している。模擬厄体は一定以上のダメージを受けると行動が止まるよう設計されているらしい。


 あともう一体は?

 あんなのにもし攻撃されたら俺は跡形もなく消し飛んでしまうじゃないか。


 俺が辺りを見回すとメダリスト2は頭から煙を出し横たわっていた。


「あれ、御堂さんが?」


 コクリと頷く御堂さん。

 やはりさすがだ。

 絶対怒らせないようにしようっと。


「やっちゃったぁと思って相談しようと加納さんのほうを見たら、その、こちらも大変なことになっていたので」


 俺もボロ雑巾のように横たわっていたということね。


「いやぁ、本当に御堂さんがいてくれて良かった。最初は一人でやるか知らない人に声かけるしかないと思ってたんだけど、そんなことしてたらどうなってたか。でもなんで攻撃があんなに強かったんだろ? 一番弱い設定のはずなのに」


 もちろん俺が更に弱かったという事実には変わりないのだが、平均値と言う割にスピードと攻撃力に差がありすぎるように思うんだが。


「たぶん加納さんはまだ霊力をうまく使いこなせていないんだと思います。今は現世と同じ要領で練習してましたよね?」


「うん。現世で少し習った少林寺拳法とか格闘技のテレビを思い出しながら」


「幽世ではもっとこう何ていうんでしょう、幽世に入る時みたいに霊力を感じ取って体内から出すイメージというか」


 なるほど。

 だから俺の攻撃もあまり効いてなさそうだったし、キック一発で吹き飛ばされたのか。陰陽反転と同じ要領ならどうにかなるかな。


「分かった。やってみるよ。良かったら今度教えてくれないかな? とりあえず、今はあれをどうにかしよう」


「あ! そうでした! どうしよう〜」


 俺達は煙の出ているメダリスト2を抱きかかえ地下修練場へ戻った。

 オヤジ1の方は時間が来たのか無事だった。帰還モードに変更すると、ヒョコヒョコと自ら歩き出し自動収納された。


 御堂さんを残し、社務所に行くと田沼さんがいたので、事情を説明し修練場へ来てもらった。


「これはまた!派手にやったね~」


 田沼さんは驚いた表情で、いまだ煙の出ているメダリスト2を見ながらため息混じりにそう言った。


「「ごめんなさい」」


 俺と御堂さんは深く頭を下げ謝る。


「ここまでされちゃうとちょっと二人にも責任取ってもらわないとダメかなぁ」


 その場にいたので俺も連帯責任だ。

 御堂さんには助けてもらってるし、ここは俺がやったことにして…

 といっても俺がこんなことできるわけもないし。何とか御堂さんに責任がいかない方法はないものか。


 俺が眉間に皺を寄せいろいろ考えていると田沼さんが笑顔でこちらに振り向く。


「ごめんごめん。冗談だよ。これで正常なんだ。一定以上のダメージを受けて止まっただけ」


 え?そうなの?

 煙が出るなんてヤバい時くらいだから完全に壊したのかと思ってたけど。


「模擬厄体は大きなダメージを受けた時に煙が出るよう設定されているんだ。分かりやすいようにね」


「ひどいですよ。田沼さん。本気でバイト増やすか悩んでたのに」


 御堂さんにも笑顔が戻り安心したのか少し目が潤んでいる。


「ごめんね。二人を見てたらちょっと冗談言ってみたくなって。いいじゃんいいじゃん、何? どうやって口説いたの?」


 後半は小声で俺の脇腹をグリグリと突つきながら探りを入れてくる田沼さん。


「そんなんじゃないですよ。たまたま開場してすぐに練習しようと思ったら知ってる人が俺等しかいなかったんです」


「勅使状の青年と御堂家の天才少女か。これはまた面白いねぇ」


 グフフと意地悪そうに笑う田沼さんを本気で嫌いになりかけたが、陰陽師の知り合いが増えたことは俺も喜ばしい。


 とりあえず何も問題がなくて良かった。


 模擬厄体の格納場所から修練場に戻ると場内から何やら凄い音が聞こえている。


 恐る恐る中を覗くと、陰陽師と模擬厄体が練習試合をしているようだ。


 彼は目で追うのも大変な速さで攻撃を繰り出し、式神らしき妖怪に魔法のようなものまで撃ち合いながら凄まじい攻防を繰り返していた。

 一撃一撃に振動がするほどのパワーがぶつかり合い修練場が壊れそうな勢い。


「すごい」


 御堂さんから見ても格上の戦いに俺達はただただ入口に立ち見守るだけであった。


「おいおい、ちょっと、灰原くん。修練場でジンガイは止めてくれよ。他の陰陽生がやりづらいだろう」


 田沼さんがすかさず声をかけると、その男性は攻撃してきた模擬厄体の両腕を掴み動きを止める。


「あ、すみません。田沼さん。誰もいなかったんでつい屋内戦の練習しちゃいました。外に出ます」


 そう言うと灰原という青年は模擬厄体を引き連れ、あっという間に外ヘ出て行った。


 静まり帰った修練場で俺が口を開く。


「今の人は有名な陰陽師の方ですか?」


「ん? 違うよ。君達と同じ陰陽生だよ」


「あの人も陰陽生ですか! 凄い練習でしたね」


「うん、彼はもう一年になるからね。そろそろ卒業試験だから気合が入ってるんだろう。合格できるかギリギリってとこだからね」


 あれでギリギリか。

 正直、実力を全て知ってるわけじゃないけど、御堂さんよりもレベルが上だったのは俺でも分かる。


「今のは通称ジンガイ3って言われてる模擬厄体の最難度だけど、それに安定して勝てるくらいじゃないと卒業はできないんだよ」


 といって田沼さんは俺達に微笑む。


 あと一年。俺は本当にそこまで辿り着けるのだろうか。

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