第10話 陰陽五作

 二月になった。

 俺の気持ちはまだ晴れない。


 後継者だと言われ、第三百五十二代安倍晴明を襲名した俺の霊力がたったの5!

俺の次に低かった人でも30はあったのに。


 迦具夜に相談したところ、そんなもんじゃない? とこれまた素っ気無い対応。潜在的な霊力を測るテストではなかったので単純に努力が足りないということか。


 代々の陰陽家系であれば小さな頃から陰陽師のいろはを教わって来ているだろうから当然といえば当然なのかもしれないが、完全に劣等生の烙印を押されてしまったのは間違いない。


 やっぱり健康診断みたいに個室で一人ずつ測定すべきだったんだよ。競争心を煽る作戦なのか知らないが、その前に心が折れそうだ。


 今日は記念すべき一回目の講義。

 テーマは退魔術『厄消やくけし』基本体型の一つ『しゅう術』


 退魔術厄消しには基本体系となる『陰陽五作おんみょうごさ』と呼ばれる五つの能力がある。


 その五つが何かというと「しゅう、ぎょう、そう、ほう、じょう」だったかな?


 口頭で言っていたのをメモっただけなので、あまり自身はないが、確かそう言っていたはず。


 明治三年の陰陽寮廃止以来、この業界は形あるものを残さない方針をとっているみたいで、講習といってもテキストなどはなく、全て口伝のみなのだ。メモを取ることは許されているのだが、もちろん転写転載禁止。


 ということで他の人達には常識なのかもしれないが、入学式の後にサラッと聞いた情報なので、詳細についてはこれから教わることになる。


 講習場所は今回も本殿地下。基本ここがメインの訓練場所のようだ。

 講義は月、水、金に行われ、講師は田沼さん。だから週三勤務だったんだな。失礼だが、ただのお掃除要員かと思っていた。


「おはようございます。今日はさすがに全員出席だね。皆には少し退屈かもしれないけど、今日はまず集術とは何かという話と実際にやってもらいながら使い方の触りを説明したいと思います。ではまず集術とは何かについて…」


 田沼さんの話によると陰陽五作の一つ「集術」とは字の如く霊力を集める術らしい。


 霊力は幽世にも流れ込んでいるものの、本来は常世を源泉とする死者の力である。それらをどれだけ自分の中に取り込めるかは集術の熟練度によって決まるそうだ。

 

 集術を理解する上で重要なのが

「最大霊力」と「回復霊力」


 最大霊力とは自分の中に溜め込むことのできる霊力の最大値。この間全員が測定した数値のことだ。

 よって、俺は5までしか霊力を溜められないことになる。


 そして、回復霊力とは一秒間に集めることのできる霊力。

 行動によって減った霊力をどのくらいの速度で再び集めることができるかということ。

二次試験の時に走り回ったにも関わらず全然苦しさを感じなかったので、あの程度では大して減ることはないのだろう。


 霊力測定の時に幽世内では何もしていなくても毎秒1の霊力を消費していると言っていた。


 例えば俺の回復霊力が2だとすると、何もしなければ2引く1なので、霊力が1秒間に1ずつ回復していくらしい。

 まぁ、どちらにしても5までしか増えないのだが。


 霊力は全ての基本になるので、厄体から攻撃を受ければ減るし、霊力を大きく消費する技を繰り出せば減る。常に気にかけ、うまく調整しながら行動しないといけないそうだ。


 もし最大霊力が1にも満たない普通の人が幽世に入った場合、肉体の霊化現象が始まり消滅する。

 そのため、一般人を幽世に連れ込むことは絶対にNG。

 協会ルールでも厳しい罰則があり、悪質と判断されると陰陽師資格は永久剥奪だという。


「あ、あの、もし戦ってる最中に霊力量が0になったらどうなるのでしょうか?」


 御堂さんがちょこんと手を上げて質問した。


「0になったからっていきなり消滅する訳じゃないよ。呼吸と同じようにだんだん苦しくなって、放っておくと常世行きってこと。個人差もあるからどのくらい大丈夫なのかは状況次第だけどね」


 田沼さんが腕組みしながらにこやかに答える。


 現世と同じで幽世でも霊力が少なくなると息切れしたり、疲労感のような症状は出るそうだ。

 幽世は死者の霊気と断片的な記憶の集合により形づくられた世界。現世にそっくりでありつつ、現世にないものも存在する。

 幽世にいる妖怪や幽霊も死者の記憶による産物なのだそうだ。


「どうすればその霊力を増やせますか?」


 一回目の講義ということもあってか他にもいくつか質問が出たので、俺も一番気になることを質問してみた。


 霊力の低さを早くどうにかしないと俺に未来はないので。


「それはもう霊力を使い続けるしかないんだよ。霊力は使えば使うほど最大霊力も回復霊力も少しずつ増えていくんだ。この地下修練場は陰陽生であれば自由に使えるから気軽に来てくれていいよ。模擬厄体の貸出もできるからね」


 使い続けるか。

 意外と方法は単純なんだな。


 このあと、俺は田沼さんに模擬厄体の使い方を教わって帰路に着いた。


 よし、明日から頑張るぞ!

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