転生したら貴族だった件

第一話 思い出されるのは最大の黒歴史

 転生もの。


 俺の知る限りで、結構昔からあったジャンルだ。そして俺が生きていた時代でもそれなりに人気のジャンルだった。


 記録としてしか残っていない自然豊かな過去や異世界に転生して、苦労せずに成功したい。異性にモテたい。安全に暮らしたい。外は汚染物質が蔓延し、防護服と強化心肺が無くては生きていけないような世界なんてもう嫌だ。こんな格差社会から抜け出したい。etc。etc……。


 転生モノなんてジャンルが流行るのは、現在に対する不満と願望の反映でしかない。偉い人はしたり顔で言っていた。


 そんなの当たり前じゃないか!


 大人になり社会構造の片鱗が見えるようになれば、否応なしに世界を統治する連中怪物共の思惑というものが透けて見えてくる。すでにこの世界は数十億の人類を抱えることができなくなっている。世界レベルの災害により人口減少が爆発的に進む中、さらに社会制度的に加速させ人口を調整しているのだ。いや、生物を減らすことで均衡を取り戻そうとしている。


 その方法論として知力・財力・権力などで様々な弱者を作り消費していくのだ。


 幸いなことに俺や姉貴はギリギリ中層にいた。それは両親のおかげだ。そして、その辺が割り切れないからこれ以上の勝ち組にはなれないし、なろうともおもわない。だから俺は、仕事役割仕事役割と割り切り趣味の時間を大事にすると決めた。姉貴のように趣味と仕事役割が一致してしまっているパターンも悪くは無いが、俺は分けるほうがより楽しめると感じたからそうしている。考え方の違い程度でしかない。


 だが……。



――そんな俺が転生するなんて



 転生なんてそれこそ科学的ではない。人体の科学的解析が完了し、アンドロイド自動人形と人類の違いをゴーストの有無と定義できるようになった時代。大人にもなれば、転生なんてものは夢物語と割り切っていた。


 その辺が割り切れて無かった子供時代。修練の合間に自分が転生した時に備えていろんなことを学んだものだ。


 たとえば同じ世界の時間軸における過去に転生したなら歴史知識の有無は、未来予知に等しくなる。災害を予想し、人物の趨勢を知る。同じ時代に生まれた道具の原理を知り先んじて再現できれば力になる。


 数学や物理も侮れない。数学的なアプローチは科学技術の根幹である。光と影、重力加速度。沸点、融点、単純な罠も物理法則であり、統計的アプローチはわかりにくい自然現象の乱数から傾向を浮かび上がらせる。


 もちろん魔法などの技術もそうだ。力ある言葉と内なる魔力の操作。外なる魔力への効率的な干渉も重要だ。


 果ては刀や簡単なアナログ計算機の作り方から、原始的な製鉄炉の図面。そんなものまで頭に叩き込んだのだからなんともいえない。


 副産物で学校の成績が上がり、大量の雑学はコミュニケーション能力を支える話題という下地になった。これがなかったら、逆に周りになんと言われたことか。


 でも大人になるにつれて理解してしまう。


 空想と現実は違う。


 なのに、今、おれは転生していた。

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