第50話 [怪奇譚②]

 息を整えながら、俺は更に朔に質問をする。


「なんで、本名を隠してたんだ……?」

「俺が妖怪に関連しているということもあるが、それと同時に俺はとある仕事をしてるからだ」

「…………その仕事は」

「〝暗殺者〟」


 やれやれ。どうやら、俺の周りには普通の人間がいないようだな。


「どうだよ強谷、良い冥土の土産になったろ?」

「……はっ! 『冥土の土産』ねぇ?」

「……何笑ってんだ」

「いやいや、生温いなって思っただけだ」


 謎の気だるさにも慣れてきた。魔法をさらにかけたらもう戻れるくらいになったので、ちょっと言わせてもらうとしよう。


「生温い? 何言ってんだ、お前」

「……死後の行く先、俺は三つあると思ってる。一つ目は『天国』、二つ目は『現世』……まあ輪廻転生だ。そして三つ目は『無』だ。『地獄』はただの道でしかない。邪なる心をなくすためにあると思ってるから、行く先には入れなかった。

 ……さて。何もない、無の空間。それは全く刺激のない世界だ。俺だったら、その無に行くより、地獄に行って輪廻転生する方が全然マシだね」


 ……ま、俺の前世の世界がそんな感じだったけどな。刺激……未知のない世界だ。


「じゃあいいぜ。強谷、お前を〝無〟に送ってやるよ」

「生憎、まだ死ぬわけにはいかないんだよ。お前が全力で来るなら、俺も本気で行くぞ……」


 そう啖呵を切る。と言っても、俺が妖怪を見れないのは変わらない。

 武器を収納したことや、身体能力の向上は妖術? とかを使っていたんだろう。『妖怪を統べる者』と言っていたし、周りに数多の妖怪もいるかもな……。


 だが、今は見えなくても、見ることができる可能性はある。

 成功するかはわからない。けれど、試す価値はある! だから力を貸してくれ――ソフィ。


「神獣氷魔法――【凍結世界のアリスアリス・イン・グレイシャルエイジ】」


 両手を地面につけ、魔法を発動させる。周囲の気温は一気に下がり、地面から氷が生えたり、宙に氷が浮遊している。


「ほぉん、これが魔法か……すごいな」


 キョロキョロと見渡して感嘆の声を漏らしている朔。

 どうやら成功したようだ。氷に反射して、朔の隣や周りに不可思議な生き物の姿が見えたのだ。


(あれが妖怪か……。ちょっとテンション上がるな……)


 映画とかで、幽霊とか妖怪が鏡にだけ映るのを思い出してこの魔法を発動させてみたのだ。


「朔、いや怪斗。一旦話し合わないか? 多分、誤解が生まれてるんだよ」

「まだ言うのかよ……しつけぇぞ強谷……!」


 怪斗の下された前髪がゆらゆらと風で揺れていたが瞳は見えなかった。だが一瞬髪が浮いたと思うと、一気に距離を詰めて一発し発砲し、ショットガンを振るって来る。

 変化したのは髪と痣だけではなく、やはり目の色も変わっていた。怪斗の目は、まるで金剛石ダイヤモンドでも埋め込まれているかのような〝無色〟だった。


「わかったよ怪斗……! 聞く気がないなら聞かせてやる。わからないならわからせてやる! お前を悉く敗北させて耳にタコができるぐらい真実を言ってやるよ!!」


 ギリギリと武器を押し付け合いながら、怪斗に言い放つ。


「【天獄之焔ソプラ ・インフェルノ】!」


 ソフィ戦で使った禁忌魔法を使用する。ただ使うのではなく、鉄パイプの中から出るようにした。それにより、鉄パイプの曲がっている部分から金色の炎が吹き出て、推進力がアップする。

 そのまま押し切り、怪斗を奥の建物まで吹っ飛ばした。


「チッ! 面倒な魔法そうだな」


 壁に激突する前に、妖怪をクッションにしていたようだ。布に手が生え、目がある妖怪……一反木綿だろうか。


「じゃあこっちも潰しにかかるぜ……!」


 ザワッと悪寒がする。地面の氷を見ると、30メートルほどある骸骨や首が伸びている女性……。昔図書室で見た妖怪図鑑に載っているものもいるし、全く知らないのもいた。

 その妖怪たちに注意を払いつつ、怪斗と距離を詰める。


「ッ!!」


 怪斗は眉間にしわを寄せ、銃を俺に向けて発砲。それと同時に、骸骨が上から拳を振り下ろしてくる。

 鉄パイプの穴から炎を噴き出させ、俺は怪斗を中心に弧を描くように一瞬で移動する。


「なっ……」

「ソフィ、まじでお前と契約してよかったよ」


 移動すると同時に手から鎖を出していて、怪斗をぐるぐる巻きにすることに成功した。


「おらァッ!!」


 背負い投げをし、怪斗を宙に放り投げる。狙いを定めて鉄パイプを投げるが、それを一匹の妖怪に弾かれて後ろのビルに突き刺さる。


「当たらなければいい話だ」

「それを判断するのはまだ早いぞ、怪斗」


 クイッと人差し指と中指を同時に立てると、鉄パイプから炎が吹き出て、ぐるぐると回転しながら怪斗の頭に直撃した。


「痛ぇなぁ……。けどよ強谷……俺は別のことでプッツンしたぜ……」


 声が震え、ドスが効き始める。


「手加減しやがって……! 戦いの場で手加減すんのは挑発行為だろうが!」

「確かにそうだが……俺は話をしたくてだな、殺すわけには――」


 俺の目の前に、着物を着た雛人形のような妖怪が現れ、俺の腹にぽんと手を当てられた。


「ガッ!!」


 トラックにでも轢かれたかのような衝撃が走る。怪斗は悪鬼羅刹のような表情で俺を追尾し、ショットガンを発砲してリロードを繰り返す。

 自分の手と靴を摩耗させながらなんとか避ける。


「な……動けない……!」


 【空間転移テレポート】で場所を移動したが、足がピクリとも動かなくなった。


「強谷、お前は強いよ。だから普通だったら30分ぐらい動けないこの術も、見積もって15秒、そこから動けない。だが……」


 怪斗が再び武器を入れ替える。取り出したのは、ガトリング砲だった。


「視聴覚室の壁みたいになりたくなかったら、頑張って耐えてみせろよ、強谷」

「ッ!!」


 引き金を引くと、装置が回転をし始める。そして銃弾の雨が俺に降り注ぎ始める。

 鉄パイプを両手で持ち、炎を噴き出させながら高速回転させて銃弾を弾く。捌き切れなかった弾は防御魔法でなんとか防ぐ。


 その数秒間は一時間と思うほど長く、辛く感じた。

 15秒経ったらすぐにその雨から逃れようと移動したのだが、俺の後ろに怪斗がいて、腹に銃口を当てていた。


(なんでここに……! あのガトリング砲は……妖怪がやってるってか!!)


 脳内で考察しながら、防御魔法を展開する。


 ――ドォォン!!!


「な……んで……」


 俺の腹にには、覗き穴が無数開き、そこからドロっとした赤い液体が漏れ出てくる。


「えほっ……ゲホッゴホッ!! カハッ……」


 口からもその液体が出てきて、鉄の味がよく伝わってきた。


(意識が……薄れて行く……!)


 途切れそうな意識をなんとか繋ぎ止め、怪斗から距離をとった。


「そろそろ終わりにしようぜ」


 そう言う怪斗は、ジャキッと狙撃銃を構えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る