第24話 [修羅場]

 テイム事件から一夜明け、俺は弁当を用意した後学園に向かっている。魔力欠乏症が原因で二日酔いみたいに頭がガンガンする。


異世界あっちで飲みすぎた時以来だな……」


 自分の魔力量の少なさが嫌になってくる。

 まあ今はソフィをテイムして……いや、テイムしてしまったから魔力量も多少増えたけど、やはりまだ前世には及ばないな。

 それと、ソフィをテイムしてしまったことで、俺にも〝神力〟が流れ始めたようだ。


「となると……の力も使えるのかねぇ……」


 その力はまた今度試すとするか。

 ……それよりも学園行きたくねぇー! どんな顔してソフィに会えばいいんだよ!!

 ため息を零しながら学園に向かった。



###



「強谷おっす〜〜! ……って、なんかお前元気なくね?」

「……ぉはよ、朔。まあ色々あってだな」


 自分の席に座ると、いつものように朔が話しかけてきた。


「ふーん……。はっ!? まさか九条さんと何かあったのか!?」

「静音とは何もないが?」

「ああ、そう……。って、静音!?!? 詳しく聞かせろ!!」

「黙れ朔、うるせぇ」

「ひでぇ!!」


 ヘッドフォンを耳に当て、頬杖をついて外を眺めながら音楽を聞き始める。しかし、横からツンツンと突かれる感触がする。

 朔め、そんなにしばかれたいのか?


「おい、そろそろいい加減に――……なっ!?!?」


 視線をそちらに向けると同時に、俺は驚愕した。


「おはよ、モガミん♪」


 そこにはソフィがいた。いたのだが……耳と尻尾を出したまんまだったのだ。

 ぐいっと手を引き、顔を近づけてボソボソと話し始める。


「ばっっかお前! なんでそれ隠してないんだッ!!」

「え? 隠してるよ??」

「はぁ? 俺にはブンブン振れる尻尾が見えてるんだが!?」

「テイムが原因……とか?」


 主従関係という名の【従魔契約テイム】をしたことで、使っている魔法とかもわかったりするとかなんとか、聞いたことがある。

 ソフィは魔法を使って隠しているが、俺にはそれが効いていないって感じか。


「あー……。多分それだな。悪いな、急に引っ張ったりして」

「大丈夫! 強引なの好きになったみたいだから……♡」

「? どういう――」

「……強谷……」


 ソフィに追求しようとしたが、淡白だが冷え切った声が横から聞こえてきた。


「あ、静音か。おはよう」


 相変わらずポーカーフェイスだが、アホ毛は今までに見たことないぐらいギッザギザになっていた。


「挨拶、どーでもいい。 ねぇ、ソフィア、どーゆーこと……」


 俺たちを見下ろして威圧感がある静音。『ゴゴゴゴ……』という擬音が見える気がする。


「シズじゃん! おっはよ〜〜!!」

「二人とも知り合いなのか?」

「そっ! 中学生からおんなじなんだ〜〜」


 なんというか、不思議なコンビだな。寡黙なタイプと元気溌剌なタイプの二人って。

 ソフィはすっと立ち上がり、静音と話を始める。


「で……ソフィア。質問に答えて」

「えーっと……なんの質問だったっけ?」

「なんで、強谷と一緒にいるの……」

「別にモガミんと一緒にいてもいーでしょ? シズになんか問題あるの?」

「大有り。強谷は、私の観察対象」


 俺は静音の観察対象だったのか……?


「ふっふっふ……シズは甘いなぁ〜! モガミんはねぇ、あたしの飼いぬ――ムグゥ!!」

「おいおいソフィ……? 何言おうとしてんだい? またビンタされたいのか?」


 ソフィの口元を手でべシンっと抑え、小声で脅した。

 だが……おかしいぞ。なんかソフィが全身震わせて恍惚な表情をしている気がする。

 あと尻尾がありえないスピードで左右に振っていた。


「そ、ソフィ? お前大丈夫か?」

「プハッ……。うん、すごくよかった♡」

「え、何が……?」


 なんか……ソフィが怖い。

 前世で恐れられてた俺が、逆に恐れる時がくるなんて思わなかった。


 ってやばい。静音の目がいつもの半目よりも細くなって俺たちを睨んできている。


「強谷は、私の観察対象……!」

「シズぅ、別にそれあたしいてもよくない?」

「よくない。正確なデータ、とれない。ソフィア、いらない」

「それを決めるのはシズじゃないでしょ〜?」

「むぅ……。強谷はどうなの」


 急に矛先が俺に向いてきた。


「俺は誰のものでもないと思うから……すまんが、ソフィに一票」

「いぇ〜〜い!」

「むぅ……!」


 なぜだ。なぜこんなギスギスになっているんだ……。周りもザワついてるし……。


「あのソフィアちゃんが自分から男の人にくっついてくって珍しいね」

「まさか……っ!」

「おまっ……あのソフィアちゃんまで取られたって言いたいのかよォーーッ!!」

「地味にソフィって呼んでるし……」

「さすきょう(『流石強谷』の略)」


 その後、朝のHRホームルームが始まるまで言い争いが続いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る