第5話 [買い物&魔法で料理]

 財布を持ち、最寄駅である天伸駅の電車に乗って近くのスーパーまで向かった。

 記憶が戻ってからの初めての電車で、内心テンションが少し上がっていいたのは内緒だ。


 駅に着いたら数十メートル歩き、スーパーに到着。

 もうそろそろ夕暮れ時なので、スーパーの駐車場は車が多く止まっており、子連れの主婦らしき人たちも多くいた。


「ささっと買って帰ろ」


 スーパーの中に入る。そこは、棚に野菜や肉、調味料などが沢山ある場所だった。

 ちなみに今日作る料理は〝肉じゃが〟だ。理由は、記憶を漁って一番最初に思いついたのが肉じゃがだったからだ。


「えーっと、必要なのはじゃがいも、それに人参、玉葱、白滝、豚肉、醤油、酒、みりん、砂糖……。調味料は家にあったな」


 カゴを腕にかけながらスーパー内を歩き回り、必要な材料を手慣れた手つきでそこに放り込んで行く。

 コンプリートしたらレジに並んでいる人たちの最後尾に俺も並ぶ。


「むむぅ……」


 ……やっぱり、チラチラと見られている。主に女性から。やれ、面倒だな。

 いつもここで買っており、誰からも見られることもなかったはずなのに、今ではすごく視線を感じる。

 自意識過剰とかではない。前世では襲われることが伊達にあったため、そういうのは鋭いのだ。


「あらイケメン! 今日作るのは肉じゃがかしら〜〜? 偉いわね〜!」


 順番を待っていると、後ろに五十代ぐらいの女性が並び、そんなことを俺の顔とカゴを交互に見ながら言ってくる。


「正解です」

「肉じゃがを作るコツとか知ってる〜? よかったらおばちゃん教えちゃうわよ〜?」

「作り終わってから三十分ぐらい冷まして、もう一度火にかけて醤油を入れると味がよく染み込む……とかですかね?」

「あらっ! 正解! も〜、あなたいい旦那さんになるわよ〜〜! うちの夫と変わってほしいわ〜〜!!」


 バシバシと俺の背中を叩いてくる女性。俺は『あはは……』と苦笑いを零す。


「次の方ー」


 レジにいる若い女性店員さんに呼ばれたため、前に進む。金を支払い、カゴを受け取ったのだが……店員さんはモジモジとしながら顔が赤くなっていた。


「帰ろっと」


 同じく電車に乗り、来た道を辿って自宅へと帰った。



###



「さて! 早速始めるか!」


 家に帰った俺は、キッチンに立って料理を始めることにした。


「まずは――【清掃クリーン】」


 手洗いの代わりに、この魔法を使って手を綺麗にした。普通に手を洗うよりもこっちをした方が確実に綺麗になるだろう。

 魔法が普及したら色々な生活必需品が無くなりそうだな。


「野菜……魔法で洗うか。【ウォーターボール】、そんで【ウィンドカッター】」


 水の球を宙に浮かし、その中に使う分の野菜を入れる。そして【ウィンドカッター】で泥をとり、皮を剥く。洗濯機の要領だ。

 そして、適当な大きさにそのまま切断した。


 ――その後も、熱が伝わりやすい魔法を使ったり、様々な魔法を駆使して肉じゃがを完成。米もしっかりと炊いた。

 皿に盛りつけたあと机まで運び、食べることにした。


「いただきます。ふんふん……ゔっ、美味いッ!!」


 魔法で料理するのは前世ぶりで心配だったが、そんな心配無用だったみたいだ。いつも通り、美味い料理が完成した。

 ガツガツと夜ご飯を食べ、ペロリと完食した。なんだかいつもより美味しく感じた気がするが、なぜだろうか?


「ごっそさん。やー、美味かった」


 使った皿や箸なども【清掃クリーン】で片付ける。もう魔法なしじゃ生きてけないかもしれないなぁ……。

 自室に戻り、ベッドにゴロンと転がる。


「明日からは普通に学校かぁ……。前までは憂鬱だったけど、もう隠すのやめたから楽しみだ!」


 今まではただひっそりと、日陰に生える草のような人生を送ってきたが、今からはわざわざ日陰に移動する必要はない。

 〝未知〟は達成され、今も楽しませてもらっているが、まだ〝強者〟が現れていない。だから絡まれたりしたらガンガン行くとしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る