第3話 [音楽]

「日が傾いてきたか……」


 その後も適当に辺りを散策しているうちに、日が傾き始めた。周囲が茜色に染まり、カラスがカァカァと鳴いて帰りを急かしている。

 いかんせん、起きたのが昼過ぎだったからな……。

 帰っても誰もいないし、夜ご飯を自分で作……いや、今日は面倒だから魔法で収容してある料理を食べるとしよう。


「帰るにも、かなり遠くまで来てしまったな。よし」


 俺は人気の少ない路地裏まで移動し、人がいないことを確認した後に魔法を発動させた。


「【空間転移テレポート】」


 その場から姿を消し、俺は一瞬で自宅の玄関まで移動する。

 この魔法はその名の通りの魔法だ。

 前の世界で転移魔法の一般常識はかなり複雑なものだが、俺は魔法を極めた賢者だから魔法を効率的に使い、そして俺は一度行ったことのある場所にいつでも転移できるという画期的な魔法にすることに成功している。

 ま……時間があったからな。


「っし、到着」


 靴を脱ぎ、家に上がる。


「まだ六時か……。夜ご飯にはまだ早いな」


 そう思ったので、俺はとりあえず自室に戻って椅子に座る。そして、昨日いじめっ子どもから取り返したヘッドフォンが目に入った。


「…………はっ! 音楽を聞こう!!」


 最上強谷として何度も聞いたことがあるのだが、記憶が戻ってから聞くとまた違って聞こえてくるかもしれない。

 そう思った俺は、時間を潰すついでに音楽を聞くことにした。



###



「――ん〜! よいッ! 最高だ!!」


 この世界では音楽が溢れている。JポップやKポップ、洋楽やボカロ曲などなど。

 前世ではあまり音楽がなくて、一人に頼んでばかりだったから、この世界は最高だな。


「あれ、もうこんな時間か……」


 時計を見ると、八時を過ぎてた。かれこれ二時間ぐらい音楽を聴き続けてしまっていたようだ。

 そろそろ夜ご飯を食べようとして、俺は魔法を発動させる。


「【無限収納ストレージ】」


 俺がそう呟くと、手のひらから様々な果物が飛び出して来た。これらは異世界の果物で、食べれば魔力の増加や筋力の増加が期待されるものだ。

 なんせ、今の俺の体は少し頑丈な人間。少しは力をつけとかないといけない。

 今の所、この地球は前の世界よりも争いごとがない世界っぽいから大丈夫そうだが、もしかしたらヤバイのがいるかもしれないしな。


「……そういえば、俺の魔力量はどの程度に減ったのかな……。そうだ、明日試し打ちするか」


 流石に今は夜。転生して記憶を取り戻したばかりだし、今日は大人しくしておいた方が身のためになるだろう。


 取り出した果物をペロリと平らげ、今は休憩中だ。椅子にもたれ、ギィギィと鳴らして天井を見つめている。


「今日は久々に魔法を使ったし、シャワーだけ浴びてもう眠るとするかぁ」


 その後は特に何もなく、シャワーを浴びてパジャマに着替え、ベッドに潜り込んだ。幸せが包み込んでいるよう感覚だった。


「おやすみー……って誰に言ってるんだ……」


 ベッドに転がって数分、俺は意識を手放した。

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