#12 年末秒読み落語会に行きたいトーカ
ようやく互いに勘違いを認めたようだが。説明に2時間を要するとはッ!
その後、互いに自己紹介をしてもらってようやく誤解が解けたが、いくらなんでも振り回されすぎだろうよ……疲れた。
「それで? ヴェロニカはどうした? こんな時間に」
「にいには本当に鈍いなぁ。トーカの推理では、何かと理由をつけてにいにに会いたいと画策して電話一本で済む話をわざわざこうして来てくれたのだと」
「ギクッ!!」
「……んなわけないだろ。こんな時間に来るなんてよっぽどの理由があるに決まってる。第一、俺に会いたいなんて、おかしくて笑えるだろ。なあ、ヴェロニー?」
「……えっと。そのぉ」
「にいに、ちゃんとヴェロニーちゃんのお話聞いて」
「ハル君と一緒に声優のイベントに……行きたいなぁって思って。これ」
なになに? 人気声優大集結。新春声優トークショー&ライブイベント。
クズンドラ主催。
「……行く」
「にいに、やっぱりオタクじゃん。全然変わってない」
「……悪いか。俺がオタクでお前になにか迷惑掛けたかッ!?」
「お前の兄ちゃんオタクだよな。お前の兄ちゃんオタクだけどお前昼飯一緒に食ってやる。お前の兄ちゃんオタクだけど俺、お前と付き合ってやってもいいぜ。お前の兄ちゃんオタクだけど、俺と付き合ってください。お前の兄ちゃんオタクだけど、トーカが好きです」
「は? なにそれ。告られるときになんで
「いないし。っていうかヴェロニーちゃんのお話ちゃんと聞けって」
「……今度ゆっくり聞くからな。それで、なんで声優イベントに?」
「うん。このクズンドラって、葛島隆介の立ち上げた会社なの。だから、ちょっと様子見に行こうかなって」
「……く、
……えぇッ!? 怖ッ!!
せっかくのイベントフライヤーをクシャっと片手で丸めちゃうなんて。え、なんで怒った!?
額に血管浮き出るほど怒るとか。
ああ、そうか、葛島に対しての憎しみがそこまで……。
「よし、夢実ちゃんのためにもがんばろう。俺もヴェロニーと同じだ。苦しんでいる声優を助ける。うん、夢実ちゃんを助けるぞ」
「にいにって本当にバカだなぁ」
「久米夢実……血祭りにあげてやろうか」
「なにか言ったか? なにか呪いの言葉のような邪悪な響きだったような?」
「決戦は正月明けッ!! ハル君……絶対にあたし負けないからッ!! キッ!!」
「おお、なんか知らないが……そこまで隆介を……ああ、がんばれ」
「にいにって本当に鈍いなぁ」
んで、ヴェロニカは兄妹水入らずだろうからって帰ろうとしたところを
いやぁ……8時なら割と人もたくさんいるし……第一、ヴェロニカはリオン姉に仕込まれて格闘技経験アリだからな……。
ってそういう問題じゃねえって言われそうだから言わないけど。
「トーカちゃんって6つも離れているけど、ハル君よりもしっかりしていそうだね」
「いえ。トーカは全然しっかり者なんかじゃありません。炊事洗濯や掃除に草むしり、田植えや稲刈り、えっと、畑仕事くらいしかできませんので」
って、話だけ聞くと苦労人のしっかり者じゃないかーーーーいッ!!
ヴェロニカまばたき多すぎ。うちの田舎だと家事全般はともかく、田んぼは家族総出だからな。農家の宿命よ……。
「ところで、トーカ。お前、なんで家出なんてしてきたんだ?」
「暮れの忙しい時期に遊び呆けて家の手伝いもせずに年末秒読みイベントなどふざけた遊びに行く暇があったら餅つきと大掃除を手伝って、蕎麦打ちに専念しやがれってんだ
「長ッ!! お前の話は長すぎるッ!!」
要するに、トーカはどうしてもカウントダウンイベントに行きたかったのに、年末は家で過ごすものだろって頭ごなしに父さんに言われて喧嘩したってことな。
ああ、その光景が目に浮かぶな……。
「じゃあ、あたしと行こうか? カウントダウンライブ」
「え? だってチケット……友達が買ってくれるって言うからお願いしようと思った矢先にそう言われてしまったので……」
「うんうん。どのカウントダウンライブに行きたかったの?」
「年末秒読み落語会……」
「……ある意味オタクじゃねえか」
「にいに、何か言ったッ!?」
最近妹が怖いんです。
はい、本日は6つ下の妹を持つHさんからのお悩み相談。うんうん、歳が離れていると話題とか付いていけないからどうしてもコミュニケーションが不足しちゃうのよね。しかも女子高生でしょう〜〜〜? 分かるわぁ。そういう場合はね、なんでも言われたことに
って、違ッ!!
「お前な……落語好きなのはいいけど、そんなもんカウントダウンじゃない時に行けッ!!」
「にいにまでバカァァァァ!! 年末秒読み落語会には大御所がみんな集まるのッ!! にいにだけは、同じオタクとして分かってくれるって思っていたのにぃぃぃぃ」
「まあまあ。ハル君、トーカちゃんは熱い想いを持っているみたいだから……ねえ、トーカちゃん。あたしがそのチケット用意してあげる。だから、行ったらちゃんとお
「……あんなお父のいるとこ帰りたくありません」
「そうね。でも、お父さんにとっても……女子高生のトーカちゃんは今しかいないの。厳しい人なんだろうけど……ちゃんと家出してごめんなさいしないと。ね?」
「……はい」
「うん、良い子だね。よし、じゃあこのヴェロニー姉さんがチケットをどうにかこうにか用意してあげるから」
「……ヴェロニーいいのか? それに取れるのか?」
「大丈夫だと思うよ。こう見えて
なんだか悪いな。妹までヴェロニカに世話になって。
しかし、ヴェロニカの口調がまるでいつもとは別人みたいに優しかったけど。家族に関わるようなことはすげえ大事にするからなぁ。
「ヴェロニーちゃん……トーカは、少し頭がカチカチだったのかもしれません」
「誰にでもそういうのってあるよね。あたしもトーカちゃんくらいのときは
「……うん」
なんだか……姉妹みたいだな。この二人。
妙に相性がいいっていうか。
ヴェロニカが見たこともない優しい眼差しでトーカの頭を撫でていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます