#Interlude02 あたしは天使@白井萌々香の屈辱



「こいつが金払えねーっていうんだけどどうする?」

「店でしばらく世話してやればいいんじゃね?」

「その前に味見するか。よく見たら、すげえ可愛いじゃねえか」

「ひゃああああ、そうしようぜぇぇぇ」



な、なんなのコイツら。あたしを安く見ないでッ!!

あんたら下衆ゲスに触れさせるために骨に皮膚がついてんじゃねえんだよ。

この身体はすべてハル君のために、この世に化現けげんしたようなもの。



——そう、あたしは天使エンジェル



誰もがうらや美貌びぼう可憐かれんな姿カタチ。立ち振舞ふるまいはまさに天使でしょ!!

触れたら即死よッ!! 即死ッ!!

けがらわしいヘドロ人形なんて浄化されて消滅するがいいッ!!



「おい、姉ちゃん、寒いだろ。こっちに来いよ。温めてやるから」

「汗かくくらいになぁ……へへへ」

「おいおい、逃げんなよ」



逃げるしかねーじゃん。だから頭の悪い男はイヤなのよ。

裏通りを走って、その間、そう、そうよ。電話すればすぐに葛島アホの介が助けに来るわ。



『お客様のお掛けになった電話番号は、電波の届かないところにあるか電——』



クソがァァァァッ!!

使えねえゴミクズ介の馬鹿野郎がぁぁぁ!!

てめえなんて、これっぽちも期待してないからな!!



あの役立たずッ!! どこで何してやがんだ〜〜〜〜ッ!!



このあたしのピンチのときくらい助けに来なさいよ。使えない男ね。

毎日塩分多めの食事を作って、じわりじわりと殺してやるんだからッ!!

高血圧まっしぐらよッ!!



「おい、待てよーーーッ!!」



どこまで追いかけてくるのかしら。大通りにさえ出れば、人も……え?

あ、あああ、あぶ、あぶ、危なッ!!

ど、どうし、どうしよ、体勢が、維持できな——ッ!!



痛ぁぁぁッ!!

雪に足を取られて、滑ったじゃないの。この地面死刑よッ!!

なにがホワイトクリスマスよッ!!

単なる空のゴミが降ってきているだけじゃない。

空気汚染された汚らわしいゴミめッ!!

あたしに触れるな〜〜ッ!! ゴミ雪めッ!!



腰を打ったし、手も擦りむけた……ひッ!?



ち、血が……血が出てるッ!?



手から血が……ポツポツって血が出てるじゃない。な、なによこれ。1センチも擦りむいてるじゃない……た、た。



助けてぇぇぇぇぇぇハル君!!!




「滑りやがった。どこまでもアホな女だな」

「今のシーン、動画撮っておけばよかったな。笑いが止まらねぇーッ」



だ、だめよ。逃げなきゃ。このアホどもに捕まっていられない。



「あっ!! ま、待ちやがれーーッ」

「あいつ、逃げ足だけは速いぞ」



はぁはぁ。ここまで来れば大丈夫ね。

あ、足が痛い……さっき転んだ時にひねったのかしら。



ハル君に電話をしても、ずっと話し中なのよね。

誰と話しているのかしら。

まさか、なんてことはあり得ないから。長電話……まさか、泥棒猫ヴェロニカと語り合って、イブの夜を過ごしているッ!?



ぶっ殺してやる。そうだとしたら、ぶっ殺してやる。

ヴェロニカ……絶対に許さないんだからッ!!



それにしても寒い……お腹空いた……。

なにか食べようか……あれ、財布……あ……。



隆介の車の中に置いてきたんだ。きっと。

コンビニに寄ってもどった際に……財布をダッシュボードに置いたままだった……信じられない。

やってくれたわね。ケチ島ケチ介。

あたしの財布を見なかったことにして、あたしの金を盗むとは。



なにも食べられないし……飲み物だって買えない……あッ!!



電車にすら乗れないじゃないの……。

どうやって帰れっていうのよ。

ハル君の家に寄生……じゃなかった。

しばらく住み着くしなないわね。



これもすべてあのケチ島と泥棒猫ブサイク性悪ヴェロニカのせいだ。

少しブラブラしたら、ハル君の家にもう一度行ってみよう……。




ってことで、ハル君の部屋は……電気が点いていないし、帰ってきている気配はない……か。

どうやら、反社一味はいなくなったようね……。こ、この外に置いてある洗濯機の陰に隠れて息を潜めていれば見つかることはないわよね。

異様に暗いし。



耐えるのよ萌々香。ここで耐えて不幸のどん底を演じてハル君に同情させなきゃ。



反社の一味に襲われかけて、売り飛ばされそうになったの。転んじゃってもう歩けないの。それに……お財布まで失くしちゃって。ねえ、ハル君……助けて……お願い……。

萌々香、大丈夫か? ち、血が出てるじゃないかっ!! 大変だ!! はやく応急処置をしなければ、死んでしまうぞ。

萌々香、ごめん。俺がヴェロニカなんていうビッ◯と電話なんてしていたから。

着信拒否? 

そんなわけないだろ。ああ、こんなになるまで……萌々香〜〜〜愛してるから死なないでくれ。

それで、あたしをきつく抱きしめて……唇を奪って……服を脱がせて……えへへ。



うぅ……寒い。ゆ、雪が積もってきた……。



あぁ……身体が冷え切って……指先の感覚もなければ……足が……冷たすぎて痛い。



も、もう朝日が昇ってきたの……ゆ、雪が……積もってるじゃない……ハ、ハル君は……な、なんで帰ってこないのよ……。



「ん? も、萌々香ッ!?」



あ、ハ、ハ、ハル……君!?



「うわっ、し、白井萌々香の凍死体ッ!?」



な、なんでこの女が一緒なのよ……電話してたんじゃないのッ!?



「な、なんで雪まみれで俺んちの前で寝てんだよ……お前、本当に死ぬぞ。はやく帰れ」

「ハル君……それで、二日酔い大丈夫なの?」

「……頭ガンガンするけど、まあ。それよりあの二人大丈夫か? 白目いてたけど」

「あの肉たち? ああ〜〜大丈夫。一日寝てれば治るでしょ」

「言い方。それにしても今朝は冷えるな〜〜〜」



あ、あたしを無視してへ、部屋に……。



「ハ……ハ……ルく……ん……ま、待って……」





あ、あのお、女……ぜった……いにめ……てやるんだ……から。



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