第23話 動き出したアラン


【アラン視点】



 牢屋を出た僕は、目についた看守を片っ端から殺害していく。

 みんな僕に逆らった報いだ。

 それから、僕は物資を集めるため、商人の館にむかった。

 もちろんアイテムボックスに、かなりのアイテムがすでに入っている。

 しかし、このままでは食料も少し心もとない感じなのだ。

 それに、これから僕は世界を相手取るつもりだ。

 そうなれば、アイテムの蓄えはいくらあっても多すぎるということはないだろう。

 僕は町で一番の商人の館を襲うことにした。


「な、なんだね君は……!? ぐわああああ!!!!」


 館に入るやいなや、商人の首をはねる。

 そしてそのまま倉庫に向かって、アイテムをアイテムボックスに詰め込んでいく。

 まるで物語の中のダークヒーローという感じだ。

 そう、僕は今まで勘違いしていたんだ。

 なにも主人公ってのは、勇者だけではない。

 世の中には、悪役が活躍するような物語もたくさんあふれている。

 アサシンやローグが活躍するような物語がね。

 ほかにも、魔王を主役とした空想物語なんかもあるくらいだ。

 だったら、僕はそのダークヒーローになればいい。


「よし、これで十分かな」


 僕はいくつかの商人の館をめぐって、いろいろ物資をかき集めた。

 幸いなことに、僕のもともとのスキルが役に立った。

 まさかアイテムボックスがこれほど盗みに役立つスキルだったなんてね。

 もっと早くに気が付いていれば、僕も道を間違えずに済んだかもしれない。

 ジャスティスなんかに寄生しなくても、僕一人で一財産築けるじゃないか。


「ん? これは……なんだ……?」


 僕は盗んだ商品の中から、一冊の本を見つける。

 しかし、この世界に存在する文字で書かれていないのか、まったく読めない。

 翻訳のアイテムを使ってみても、どうにも読むことができなかった。


「うーん、これはいらないな……」


 僕はそれを、そっとその場に戻した。

 必要のないものだから、これは盗まないでもいいかなと思ったのだ。

 読めもしない本なんて、まさに無用の品だ。

 そして僕は、盗品の数々を抱えて、闇に消え去った。

 ふふふ……ダークヒーロー、かっこいいぜ。





【神視点】



「おや……あの本は確か……」


 神は上空でアランを見てつぶやいた。

 アランが手にもっていた本に、見覚えがあったからだ。

 それはこの世界のモデルにもなった本『追放勇者』だった。


「まあ、アランがあれを理解できないのも無理はないですね……。あれは日本語で書かれていましたから」


 本来であれば、そのようなもの――もともとその世界に存在しないようなもの――が下界に落ちることは、神としては避けねばならないことだった。

 しかし、この神も例にもれずこの状況を面白がっていた。


「ま、別に放っておいてもかまわないでしょう。もとはと言えば、あの本を下界に落としたのは前任の神ですし。私のしったことではありません」





【ジャスティス視点】



 俺のもとに、とある知らせが届いた。

 なんとあのアランが、牢屋を抜け出し、さらにまた多くの殺人を犯したというのだ。


「マジで極悪人め……」

「ほんと、許せないわね……あんな男、死んだほうがましよ」

「私たちの元仲間と思うと、吐き気がしますね」


 俺もわずかだが責任を感じざるを得ない。

 どうやらあのアランには特別な力があるようだった。

 それにもかかわらず、俺はやつを野放しにしてしまっていた。

 あんな危険人物は、もはや生かしておけないだろう。

 牢屋にぶち込んで、力を封じても出てくるなんて危険すぎる。

 実際に、俺のもとにそういう依頼がきた。


「お願いします勇者ジャスティス……! あの極悪人をなんとかしてください。生死は問いません。もはやあの怪物を止められるのは、あなただけだ」


 衛兵を束ねる立場にある男性が、俺にそう依頼する。

 俺は二つ返事で答えた。


「もちろんだ、元仲間として、あのバカの息の根は俺が止めて見せる……!」


 俺はアランの動向を追った。

 どうやらアランが脱獄した直後に、何件かの盗みが起きたらしい。

 俺はそれがアランに関係あると推理した。

 一夜にして商人の館から、数々の品物が消え去るなんておかしい。

 それこそ、アイテムボックスのような便利なスキルがなければ……。

 俺は商品を盗まれたという商人たちを探して回った。

 ほとんどの商人が、アランとみられる犯人によって殺されていたが、幸いなことに生き残りがいた。

 その商人は、絶望した表情を浮かべながらも、俺に話をしてくれた。


「いやぁ……私は運がよかったほうですよ。命がありますからね……。ちょうど、私は別の場所に商談に出ていたんですよ。どうやら犯人は、使用人の一人を私だと思って殺したようで……」


「そうですか、それは……不幸中の幸いでしたね。それで、盗まれたもののリストは……」


「これです。いやぁ、一冊の本を除いては、全部盗られてしまいましたよ」


「一冊の本……?」


 俺はなにか、その言葉に引っ掛かりを覚えた。

 商人の在庫にあった、一冊の本、なぜそれだけを、わざわざ残していったのだろうか。

 本の商品なら、ほかにもあったはずだが、一冊だけを盗らなかった理由は?


「ああ、この本ですよ。なにか見たこともない言語で書かれていましてね。私もほかの商人から受け取ったもので、出所は定かではないんですが……。物珍しかったものでね」


「こ、これは…………!?」


 俺は自分の目を疑った。

 なんとその商人が持っていたのは、俺も見覚えのある本だった。


「『追放勇者』…………!?」


「ほう、勇者様……この文字が読めるのですか……!?」


「あ、いや…………」


 しまった。

 ここはなんとかごまかさないと。


「た、たぶん……勇者の力のせいだと思う」


「そうですか。やはりこの本は特殊なものなのですね……!」


 とにかく、この本はなんとしても手に入れなくてはならない。

 だって、この本には俺の今後の行く末が書かれているのだから。

 俺にとっては、攻略本も同然だ。


「あの……この本を、俺に売っていただけませんか」


「もちろんです。勇者さまにこそ、ふさわしいものですからね」


 ちょうど、この前アランを捕まえたときに、ギルドから報奨金が出ていたのだった。

 俺はそれを全額、この商人に渡すことにした。

 この本には、それだけ払っても余りあるほどの価値がある。


「いやぁ、助かりましたよジャスティス様。私はすべてを盗られてしまって、もう絶望していたところですからね……。このお金をもとでに、一からやり直せそうです」


「それはよかった。こちらも、貴重な本を譲ってもらって感謝する」


 人助けにもなったことだし、神に感謝だな。

 そして俺は例の本を持ち帰り、一人になったところで、その本を開いた。


「な、なんだこれは…………!」

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