第20話 本当の主人公2


 ちょうど、ギルド長や衛兵たちもあつまってきた。


「勇者ジャスティス……さすがはわがギルドが誇る英雄だ! 君ならきっとやってくれると思っていたぞ!」

「犯人逮捕にご協力いただき感謝します……! こいつは……衛兵殺しの犯人と同一人物だったとは……とんだ極悪犯ですな……」


 衛兵はアランの手首に魔力封じの腕輪や、力封じの腕輪を装着した。

 まるで手錠みたいだな……。

 アランの罪状は、多岐にわたる。

 まず、俺を刺したこと、盗んだこと、そして衛兵殺し。

 なんと俺から逃げたあとに、衛兵を10人以上も殺していたという。

 まさか人殺しまでやるようなやつだとは思わなかった……。

 こんな屈折した人間をそばにおいていたなんて、今思うとぞっとする。

 キレたらなにをしでかすかわからないタイプだな。

 もしかしたらマチルダやユリシィも、なにかをされていたかもしれない。

 そう思うと、やはりあの時追放しておいて正解だった。

 こういう奴は、目的のためなら手段を正当化してしまうタイプだ。

 まったく……救いようがない。


 連行されるアランは、暴れて激しく抵抗した。

 しかし、武器や魔力を持たないアランは、屈強な衛兵たちに簡単に取り押さえられてしまう。


「ユリシィ……ユリシィ……!」


 連れていかれながらも、必死になにかを伝えようとするアラン。

 未練がましいことこの上ない。


「ユリシィ……! 僕はずっとユリシィが好きだったんだ……! ねえ、ユリシィもそうだよねぇ!!!! 助けてよユリシィ!」


 などと、俺のユリシィたんに向かってそう叫び続ける。

 しかしユリシィは、心底軽蔑した目で、アランを見た。

 まるでゴキブリでも踏みつぶしたかのような、冷たい視線。

 聖女であるはずのユリシィに、そこまでの視線を送らせるなんて……。


「消えてください……。本当に気持ち悪いですね……。なにを勘違いしているのか知りませんが、私がアランを好きだったことなど一度もありませんよ? 私はずっと、ジャスティス一筋です」

「そんな……! ぼ、僕が先に好きだったのに……!」


 アランは絶望の表情を浮かべながら、連行されていった。

 ユリシィたん……天使だけど鬼のようだ。

 さすがにそこまで言わなくても……と思ったが、アランは犯罪者だから、アランの行いを考えれば、当然かもしれない。

 あんな奴から好意を向けられていたなんて、身の危険を感じることだろう。


「ジャスティスさん、これ……お返しします」

「あ、どうも……」


 俺は勇者の剣を、衛兵から返してもらう。

 そうか……これが勇者の剣……。

 俺はこれを見る前に、奪われてしまっていたからな。

 こうやって手にするのは、初めてだ。

 しかし……。


「ジャスティス……! あぶない……!」

「え…………?」


 ラフィアがいつの間にか、剣から人の姿に戻っていたようで。

 俺の手に持った勇者の剣をいきなり弾き飛ばした。 

 いったいどういうつもりなんだろう……。


「これは……勇者の剣じゃない……!」

「ど、どういうことだ……!」

「これは、邪剣ヲズワルド……!」

「邪剣ヲズワルド!?」


 どうやらラフィアによれば、これは勇者の剣を装った、偽物だという。

 人をだまし、人を食らう、邪剣……。

 そうか……もしかしたら、アランはこのせいで……!?

 いや、だとしても、彼のしたことは許されることではないだろう。

 そもそも、あいつはこの剣を持つまえから異常だった。

 それに、ラフィアの話を詳しく聞くと、どうもこの剣だけのせいでもないらしい。

 邪剣ヲズワルドは、たしかに人をそそのかすらしいのだが。

 それでも、人を完全に操るような類のものではないようだ。

 あくまでその人の本性から、悪の部分を引き出すような性質のものらしい。

 よって、聖人君子が持ってもなにも効果はないのだとか。


「私、この邪剣……浄化する」

「そんなことができるのか……!?」


 ラフィアは、そう言って邪剣を手に取った。

 そして……刀身にやさしくキスをすると――。


「おお……!?」


 邪剣ヲズワルドは形を変え、本来の姿を現した。

 さっきまではいかにも勇者の剣という見た目だったのだが。

 今ではいかにも邪剣ヲズワルドという感じの、邪悪きわまる見た目をしている。

 見た目こそこんなだが、これで浄化は完了だという。

 もはや邪剣ヲズワルドに人を惑わす力は残っていない。

 それどころか、ラフィアの力を一部受け継いで、最強の聖剣となったようだ。


「ジャスティス、これと私、二刀流で使う」

「おお……! それはいいアイデアだ……!」


 俺はラフィアの言う通り、その剣をサブウェポンとすることにした。

 これで、俺はさらに最強へと近づいた気がする……!


 そして、連れ去れれるアランを見送ったあと、俺たちはギルドの外へ出た。

 ギルドの外では、俺がテイムしたドラゴンのゲイルが待ち受けていた。


「ご主人……! 感謝いたします! あのドラゴン殺しの不届きものを、さっそくとらえていただいて……! 本来であれば私自ら食い殺したいところではありますが……。この際だから、人間たちの慣習に任せます……」

「そうか……よかったな。俺は俺の敵を倒したまでだよ……」


「私、これからもご主人に忠義を誓います!」

「いいのか……? もうドラゴンマウンテンに帰ってもいいんだぞ?」


「いえ、私はもうご主人に忠誠を誓うと決めたので! ここにいることが私の幸せです!」

「そうか……これからもよろしく頼む」


 そして、ゲイルは小さなドラゴンの姿になって、俺の肩にちょこんと座った。

 これにて一件落着。

 アランは牢獄送りとなった。

 風のうわさによると、どうやら死刑は免れないらしい。

 まあ、仕方のないことだ。

 俺はせいぜい、最後の最後にアランが改心することを祈っておいた。

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