第2話 勇者ってことは、主人公……なんだよな?



 気がつくと、目の前に外国人の青年がいた。

 そして、ここは……異世界か……?

 なにか、ゲームの中のギルド的なところにいる。

 まるでコスプレ会場かのごとく、冒険者的なファンタジーな格好の人々。


 っていうか、俺は……?

 自分の服装も、なんかそんな感じだった。

 顔をぺたぺた触るも、俺の顔じゃない気がする。

 明らかに、西洋人の顔つきだ。


 え……まさか俺、転生したの……?

 だとしたら、大歓迎なのだけど。

 でも、この状況は一体……?

 いきなり物語の途中から始まったような感じだ。

 そんな途中のセーブデータをいきなり渡されても、どうすればいいのかわからない。


 目の前の気弱そうな青年は、さっきから愕然とした感じでうつむいている。

 唇を噛んで、ぷるぷる悔しそうに震えているのだ。

 どうした……?

 そして、俺の方を向くと、キッとにらみつけてきて、こう言った。


「ねえ、それって……ホントなの……!? 酷いじゃないかジャスティス!」


 あれ……日本語……?

 っていうか、ジャスティスって俺のこと……?

 酷いって、俺……なにか言ったのか、コイツに。


(え……? 酷いってどういうことだ……? 俺がなにを言ったって?)


 俺は確かに、そう発言しようとしたのだ。

 だがしかし、口から出た言葉は、別の口調に変換されていた。


「はぁ……? 別に酷くねえだろ! 俺がなにをしたってんだ、あぁん?」


 あれぇ……?

 おっかしいぞぉ……?

 俺、そんなキツイ口調で言うつもりはなかったんだけどなぁ。

 すると、目の前の青年は涙目になってこう言った。


「だから! ジャスティスは僕を追放する気なんだろ……!? 僕が邪魔だからって、そんな! 今まで必死にやってきたのに! いきなり追放を言い渡すなんて……! それでも勇者か!?」


 そう、青年はそう言ったのだ。



 俺を、と。



 え……?

 俺、勇者なの……?

 勇者ジャスティス?

 まあ、いかにも勇者って感じの名前だもんな。

 主人公以外ありえないだろ、この名前は。


 そこで、すべてが繋がった。

 点と点が、きれいに結ばれたのだ。


 そうか!

 ここは、さっきのあの小説の世界なんだ!

 『追放勇者』の……!

 きっとそうに違いない!


 そういえば、この青年、どこかで見覚えがあると思ったら、さっきの表紙に描かれていたっけな……。

 表紙のメインはヒロインキャラだったし、こいつは小さく後ろに描かれていただけだった。

 それで気づかなかったのだ。


 ということは……俺は、勇者ってことだから――。



 あ、俺が主人公なのか!



 そして今、その主人公で勇者である俺が、この男をパーティーから追放するシーンだというわけだ。

 ふむふむ、なるほどな……。

 俺の予想では『追放勇者』はだった。

 ということは、目の前のこの青年はきっとそのロクデナシだ。

 じゃあ、俺のやるべきことは一つだな。


 この男を、パーティーから追放する……!

 そして、物語を始めるんだ!

 大丈夫、俺はこの小説の主人公なんだから。

 このお荷物を追放して、そこからパーティーが成り上がっていくことは、まず間違いない!

 だとしたらこの先、順風満帆な人生が待っている!


 いやぁ……!

 転生できてよかったぁ!

 異世界転生ってマジであるんだな!

 死んだときに『追放勇者』を手に持っていたから、その世界に転生してしまったというわけだ。

 なるほど、夢枕と同じ原理か。

 夢も、枕の下に本を置くと、その世界に入れるとか言うしな。


 だとしたら、俺はラッキーだな!

 まったく知らない未知の異世界よりも、こっちのほうが想像しやすい。

 今後の展開が読めているからな。

 俺がしっているのはあくまでもタイトルと表紙だけだが……。

 それでも、情報ゼロよりはましだ。

 せいぜい、この世界を楽しむとするか。


 では、景気よくこいつを追放してしまおう!

 どうせ勇者に追放を言い渡される時点で、コイツはろくでもない野郎なんだろうし。

 きっと悪役に決まっている。

 特徴のない顔つきに、覇気のない目。

 正真正銘のモブだな……!

 えい……!



「もう一度いう。お前は追放だ! このロクデナシめ! 俺のパーティーから、出ていけぇ!」



 俺はそう言い放った。

 物語の幕は、切って落とされた――。





(そう、盛大な勘違いと共に――)





「なぁんか……おかしなことになっておるのう……」


 その様子を天界から見ていた人物がいた。

 彼をこの世界に転生させた人物、神だ。

 老人は、ひげを整えながら、そうつぶやく。


「転生させるキャラを、間違えてしまったわい」

「またまた……神様、ほんとうはわざとなんじゃないですかぁ?」


 神の後ろから、天使がそう言った。


「ホッホッホ、そいつはどうかのぅ……」

「もう、今月四度目ですよ。転生者にいたずらするの」


 神はいたずらっ子な笑みを浮かべ――。


「ま、面白そうじゃからこのままでいっか!」

「よくないですってぇ……もう!」


 神のきまぐれで、追放ものの勇者に転生させられてしまった男の運命やいかに――!

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