第29話 夢を追う者



 美咲は、尚も目を潤ませながら、マルセリーノを見つめている。笑いを堪えながら。ここに来て目を潤ませている理由が変わって来たが。


「何や、めっちゃ恐怖を感じたわ」


「マルちゃん、続けてよ」


美咲は、笑いを堪えながらも真面目に聴こうとしている。


「せやね。小さい頃とかに小鳥でもええねんけど、掌に載せた覚えはないか? もしあったら、こんなふうに思たんやないやろか。こんな大きさで、なんて軽いんやろう? てな。それはな、大空を目指すものは、とーっても軽いんや、いう事やねん」


「マルちゃんの言うこと分かるよ」


「うん、詰まる所や、夢を胸に抱く者は、とっても身軽なんや」


天井を、空を、見ながら言っていたマルセリーノは、今度は清田に向かって言う。


「お前は、その重い荷物を捨てたばっかりやないか。それやったら無理せんと。頑張るとかやな。そんなんしたら、また、前とおんなじことの繰り返しやないか。無限のループから飛び出すんやなかったんか?」


「はい」


「せやったらな、鳥のように軽くなるんや、空を目指す者になるんや」


「・・・・・・・・。」


「分かるか?」


「マルセリーノさんは重いから空を飛べないのですか?」


「今度言うたら、しばき倒すぞ、このボケナス!」


部屋には美咲の笑い声だけが聞こえる。

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