第24話 宇宙哲学とは



 ぺペンギンは、いつもより遅いペースでシングルモルトを飲んでいる。どう言う訳か、今夜はマグロの刺身である。正面ではワサビを乗せ過ぎたのか、涙目でビールを飲んでいる清田がマルセリーノの話に聞き入っている。


「無限のループ。永遠に続くメビウスの輪。いつになったら終わるんやろ? 仏教では、悟り、って言われてるけど、ワイらの星では仏教とか無いしな、正直な話、ワイにも分からへんねん。ただワイらの星には宗教みたいなもんは無いけど近いもんは有る。全宇宙には限り無いエネルギーが満ち溢れてるし、それが具現化したものが神やって言うんやったら、それはワイらの考えと同じかも知らんし、宗教は無いけど神の存在を意識してる連中も居てる。ただ意識レベルの違いがあるねんけど宗教がないから宗派も無いワイらの星で神の存在みたいなもん?仏? その辺はワイの星の、とある学者さんが言うにはワイは凡ペンやさかいに分からんらしい」

「マルセリーノさんでも分からないことがあるんですね」

「当たり前や、分からんことだらけや。一つのことが分かったら、二つも三つも分からんことが増えるだけやし、それどころか謎を紐解いてるうちに昔作った理論が間違いやったことに気付く。所詮生き物の考えることは全宇宙の中に居てる自分の視点が届く範囲でしかないもんや」

「そんなものなのですね」

「うん。そんでや、輪廻転生から解き放たれるには悟りが必要やって言われてるやん。ほな、悟りってなんやろ? ワイは無宗教者やから分からんって言うたけど、生きる言うことは修行やのうて旅やって言うたやん。旅は雨降ったり雪降ったりで、ええ天気の日だけやないやん。上り坂もあれば下り坂もあるし、一人旅に出たことあるお前やったらよう分かるやろ?」

「はい、以前の不思議な一人旅を思い出せます」

「うん、そこでどないな経験して来たんか知らんけど、また機会があったら教えてや」

「はい、マルセリーノさんに聞いて欲しかった出来事もあるので」

「楽しみにしてるわ。それで人生の旅の話やねんけどな、林道とか歩いてて一輪の花を見て、はっ、 てすることない?」

「確かに有ります」

「悟りっていうのは、ワイは凡ペンやさかいに分からへんねんけど、知り合いの宇宙超心理学いう研究してる奴が言うには、これ、覚醒現象ていうらしいねん」

「いろんな知り合いがいるんですね」

「ま、知り合い言うても、ちょっとした研究者同士のつながりみたいなもんや。でな、この覚醒現象はな、ひとつの、今の自分を越えた現象と捉えることができるんやて。と言うことはやで、何回も言うねんけど、悟りってワイには分からへんけど覚醒現象言うのんは分かる。覚醒って簡単に言うたら目覚めるいうことやろ? 目覚めた人間は今の自分を越えたことを言うんやろ? せやったらな、覚醒した時点で既に無限のループから出て行く準備が整ってるんちゃうんかと思うねんな。せやけど分かってて何もせんかったら意味ないやん? せやし覚醒と行動は殆ど同時進行ちゃうかなって思うねん」


「そうか! 分かった! それを解脱って言うんですね」


「あのな? お前な? これぞ解脱や! って、それワイが最後に締めくくる為に置いといた言葉やろが!」


「あ、すみません」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る