虚空の男~虚ろな勇ましき者、歩み進めるその先~

MAGI

絶望の幕開け dispair's prelude

 彼の名前はレオン・アンカイザーと言う。


 そして、本当の名前は夜沢玲音。




 どうして名前を二つも持っているのか。


 それは、彼は転生者だからである。




 転生前の世界、いわゆる前世では、夜沢玲音と名乗っており、一介のサラリーマンだった。


 同時に、前世にはロクな思い出がなかった。


 いや、それどころか、記憶から抹消したい程だろう。




 凄まじい人生を送った前世から不意に旅立ち、このファンタジーさながらの世界に転生した。




 前世では、異世界転生というジャンルのサブカルチャーが流行しており、現世で死ぬとファンタジーな異世界に転生する、と言ったもので、レオン/玲音は正にそれを経験した。








 しかし、彼が経験したのは、よくある内容とは本当に無縁の環境だった。








 生まれ落ちたのは、とても人が住めるような環境ではない、不衛生で陰気な薄暗い部屋。


 その中では、様々な人間達が、雑魚寝をしていたり、壁に凭れて眠っていたりしている。


 その様子はさながら、人生に夢も希望もない、先の見えない絶望そのもの。




 転生した時に聞こえた大人達の会話から察するに、どうやら奴隷として転生したようであった。


 前世の人格、記憶を保有したまま転生したレオン/玲音は、転生先でも虐げられる事が決定した事に、深く落胆した。


 せめて何もなくても良いから、もっとマシなところで転生したかった。




 そして不意に目が滲んできた。


 もう泣き喚きたい。




 今は赤ん坊であるから、特に人目に憚らず、遠慮する事はない。


 しかし、そんな考え自体も頭に浮かぶ間もなく、レオン/玲音は大泣きした。




 大人達は、元気に泣き続けるレオン/玲音にどこか和んだのか、皆薄い笑顔になっている。














 やめてくれ




 俺は悲しいんだ




 赤ん坊みたいにただ泣くのが仕事とか、そんな和むようなものではないんだ














 そう思っても虚しく、レオン/玲音はひたすらに泣き叫び続けた。




 この時レオン/玲音だけにあらず誰も気付いていなかったが、何かメッセージウィンドウのようなものが表示され、無機質な声が響いていた。








[ ステータス要求  :  承認 ]




[   レオン    職業:奴隷 ]




[本質スキル: 虚空 が要求されました]




[本質スキル:虚空の取得が承認されました]

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