人生を俯瞰で見た“文脈”と、歯車が刻一刻と回る刹那のあいだで

 どっちがどっちかわからなくなるような鍵括弧や、柔らかくて文字に定まらないような相槌。それらから成る文章には透明感があって、読めば読むほど引き込まれます。
 人生に文脈を見出すということは、自分の一生を物語として見ているのだと思います。そして物語というのは往々にして読み手がいるもの。ここに、多感な時期特有の自意識が滲み出ていると感じました。
 いちいち文脈が気になる彼女はどこか客観的で冷めていて、それでも「どうでもいいことばかりの生活がちょうどいい」と言う彼と交流したことで、かつて意味が見出せなくなり辞めたピアノの音を、再び求めます。
 なにかが吹っ切れた彼女のラストの一言、「君はわたしの歯車なんだから」には心掴まれました。恋愛になるかならないか、その瀬戸際の描写が光る作品です。

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