冷えた台所を温かく

 人が使わなくなった建物は、いくら手入れをしていても本来の寿命より早く朽ちてしまう。そんな物理的事実をわきまえつつも、時の流れに棹(さお)ささんとする主人公の決意が麗(うるわ)しい。

 情景描写が秀抜な本作、特に序盤の裏口から入る場面が白眉であった。

 時間の一部を切り取ったがごとき写真が決意のきっかけになるのもいい。

 ああした形で食べる『緑のたぬき』の味は一生忘れられまい。

 詳細本作。