第3話 妄想?願望?


王子様と結婚する予定のミラベルは、どうやら予言も出来るらしい。


コホン……と小さく咳をし、椅子に座り直したミラベルは「先ず……」と口を開いた。


「セレスティーアは七歳で婚約するの。相手は侯爵家の次男フロイド・アームル」


我が家は御爺様のおかげで国王陛下からも信頼がある名家。侯爵家の次男であれば、婚約者としては有り得るかもしれない。

一人娘なので婿養子になってもらうので長男は駄目。当主のスペアである次男も本来なら敬遠したい。


どうやらミラベルの中では私とフロイド様の婚約は決定事項のようだ。


「でも、フロイドは婚約者であるお姉様ではなく、私に恋をするの。家の為に婚約した彼は本当の恋をしって苦しみ、そんな彼を癒して支えるのが私よ!」

「……ミラベルはフロイド様のことが好きなの?」

「え!?違うわ!なにを聞いていたのよ!」


とても良く出来たロマンス小説のようで、もしかしたらそれに自分と大好きなフロイド様を当てはめているのかと思って聞いたのだけれど。


「ミラベルは王子様と結婚するのよね?」

「そうよ!」

「でも、フロイド様は王族ではないし、どうしましょう?」


元男爵家のミラベルからすれば次男であっても侯爵家は格上の優良物件である。

アームル家なら長男以外の子息は騎士団に入るだろうから嫁いでも生活の心配はないし、もしかしたら領地を与えられて男爵になる可能性も有り得る。


でも、アームル家とはいえ王族にはどうしたってなれない……。


溜息を吐くと、テーブルに散乱しているクッキーを投げられた。

顔に当たる前に手で掴むと、振りかぶった姿のまま唖然としているミラベル。

食べ物で遊んではいけないのよ?


「ど、どうもしないわ!十三歳になったら王都の学園に通うことになるでしょ?そこで私は王太子様と運命的な出会いをするの」


確かに十三歳から十七歳までの間は王都にある学園に通うことになっている。それは王族であっても同じで、歳が近ければ王子達と学友になることもある。


でも、運命的な出会いとはなんなのだろう?


学園の中とはいえ王族には護衛が何人も就く。

王太子となれば学友も側に寄る人間も全て身辺調査が行われ、おいそれと近づけない。

公爵家か侯爵家ならまだしも、伯爵家はどうなのだろう……?


疑問が顔に出ていたのだろう。

スコーンの上にジャムを大量に乗せ齧りついていたミラベルの眉間に皺が寄った。


「……ん、王太子は、私に一目惚れするの」


口元にジャムが付いているのに気づいていないのか、ムグムグと口を動かすミラベルは可愛い。幼女の愛らしさ的な意味で。


十三歳になったミラベルに一目惚れすると言われても、これから数年かけて国で一番の美女にでもならない限り無理な気がする。

それなら誰もが唸るほどの知識をつけ側近候補になる方がまだ現実味がある……。


「王太子とフロイド二人の間で揺れる私を見て、他にも沢山素敵な男性が私に恋をするんだから」


勝ち誇った顔で笑うミラベルは、身分差というものを知らないのだろうか?

ミラベルはお父様と血が繋がっていないのだから伯爵家を継ぐことは出来ない。仮に婿養子となるフロイド様がミラベルに恋をしたとしても、馬鹿でなければ婚約者の妹にアプローチなんてしないだろう。


王太子殿下に見初められて……というのは絵物語の中だけ。

こちらも元の血筋が新興貴族の元男爵家では周囲が反対し、精々末端の側室か愛妾止まりになってしまう。


でも目的が婚姻なら、側室や愛妾でも構わないのかもしれない。


まだ他にも何か言っていた気がしたが、妄想は自由だと相槌を打ちながら呑気にお茶を飲んでいた。










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