それから 本町絢と水島基は

すんのはじめ

第一章 1-1


前書き

僕、水島基みずしま もとしは地方大学の農林海洋学部に進んだが、オリエンテーリングの日、幼馴染の本町絢が校内で待ち受けていた。気まずいことがあって、長いこと連絡も取りあってなかったんだけど、僕には内緒で、僕の後を追って、同じ大学の教育学部に合格していたのだった。僕を見ると、駆け寄ってきた絢を思わず、僕は抱きしめていた。


 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 絢はお父さんの昔からの仕事関係の仲間の家に住まわせてもらって、僕は学生寮に入った。2年までは教養課程で同じ講義を選べる。


 学生会館のカフェテリアで、絢と二人でお昼をしていたのだが、窓ガラス越しに陽ざしが差し込む。こんな光景はこれまでなかった。いつも、図書館のそんなに明るくない照明の下で、絢の透き通るような肌にも気づかなかったのだ。それに、今は、二人で居ても、当たり前のごく普通に、まわりも特別な目で見ると言うようなことがなかった。これが、大学生なのかと感じていた。


「おぉ いつも仲がいいな おふたりさん。いつもは、表の潮食堂なんだけど、二人の姿が見えたもんでな」


 寮の隣の部屋で同じ学科の 石本慎二いしもと しんじが、A定食のトレイを置いて、話かけてきた。彼は、早々と水泳部に入部していた。


「水島、高校の時も水泳やっていたんだろ、一緒にやろうぜ」


「うーん もう少し様子見るよ 他にやりたいことあるかもしれないし」


「そうかー 絢ちゃん、入らない?」


「私 合気道やろうかと思っています。あんなぁー なんでウチの名前知っているん? なんか、慣れ慣れしいー」


 確かに、なんで、お前が絢ちゃんなんて、いきなり、呼ぶんだよー


「えぇー なんで合気道 イメージ合わないなぁ あのね、先輩連中の間では、ミス〇〇大の教育学部3回生の桂川音海の後は、新入生の吉川すずり か 本町絢 か っていう話なんだよ 絢ちゃんは有名人なんです」


 僕も絢も声が出なかった。つづけて、石本が


「もっとも、僕は本町絢には水島基という彼氏がいますって言っておいたよ」


「おい やめてくれよ 彼氏って そんなー」


「ウチは、かまへんよ モト君が彼氏って ウチはモト君の彼女のつもりだもん」

 

 やめろよー。ただでさえ、しょっぱなに学生会館の前で女の子を抱きしめている奴がいたと話が広まっているのに・・。だけど、絢がこんなに積極的に話すとは思ってもいなかった。


「おお おお 言うのー 絢ちゃんも。それで吉川すずりは付き合っている奴がいるんか聞いてくんない? 同じ教育でしょ」


 石本も関西出身で遠慮なしに話しかけてくる。でも、付き合いやすいので、この後、僕はこいつと仲良くなっていく。


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