Day 5. 聡の勇壮~ホッと一息~

「カオリに手を出すな!!」


 直人に1発食らわせた俺は、相手の様子を伺いつつ次の行動を考えていた。


 あの状態から辛うじてでも受身を取れるのはさすがとしか言えないが、とりあえずカオリを無事に帰さなければならない。


「お前、誰だ?」


「名乗る必要は、ないね。」


 俺は直人と直接の面識はない。だが、悪評ならば聞いている。


 しばらく睨み合いが続き、直人が殴りかかってくる。なかなかいいパンチだ。が、甘い。


 難なく躱す。喧嘩にはそこそこ自信があるのが見て取れるが、こちらも柔道の有段者である。


 素人の喧嘩師に遅れをとる訳にはいかない。


 何度か打ち合い。俺は手加減しつつ相手の攻撃を避けるというかなり高難度な技を難なくやってのけた。実力の違いに気づいたのか気づいていないのか、直人は間合いを取り、こちらをにらみつける。


 と、ちょうどいい所に、


「お巡りさん!! こっちです!!」


 遥の声だ。


「なっ?!」


 焦ったのか、直人は吐き捨てるような舌打ちとともに必死で逃げていった。


「聡……遥……。」


「おう、カオリ。無事か?」


 つとめていつもと変わらない呼び掛けをする俺に、緊張の糸が切れたのか。


「う、うわあああん!!」


 泣きじゃくるカオリを、俺は無意識に抱き締めて。ただ、背中を撫でていた。


 しばらくそうした後。


 カオリを支えて移動しながら俺はコンビニの前で立ち止まり。


「ちょっと待ってろ。」


 コンビニの前に独りで居させるのも心配だったのでサッと買い物を済ませ。


「ほら、あったまんぞ。」


 2つずつ買ってきた缶コーヒーと肉まんの片方をカオリに差し出した。


 毒味という訳でもないが、俺は自分の分の肉まんとコーヒーを口にする。


「うん、うまい!」


 カオリはそっと受け取ると、まだ湯気のたつ肉まんを少しずつ頬張った。


 暖かいコーヒーと交互に口にしているうち、その双眸からは透明な雫がとめどなく溢れ出て――。


 俺はハンカチでその涙を拭い去った。


「お前、酷い顔だな。」


 冗談でそんなことを言ってみた。カオリの表情が泣き笑いに変わる。


「もう泣くな。俺たちがついてる。」


 カオリはこくり、と頷く。


「ふふっ、かわいいじゃねーか!惚れちまうだろ!!」


 またも冗談、のつもりなのだが自分でも冗談なのか本気なのか分からない言葉を吐き出す。


「あはは!」


「やっと声出して笑ったな!今日は俺と遥が家まで送るからゆっくり寝ろ。いいな。」


「うん、ありがとう。」


「よし、帰るぞ!!」


 くそっ!!めちゃくちゃ可愛いじゃねーか!!ヤバいこれはマジで惚れそうなんだが……!!


 だが、この歪んだ想いを悟られてはならない。他の誰にバレてもカオリにだけは絶対に!!


 俺は、こいつを元に戻す。そのためのサポートは何でもする。そう決めた。


 だから。


 だから。


 俺の気持ちなんかに気づくな!!

 お前は元に戻ることだけ考えろ!!


 そうじゃないと、俺――


 出来るだけさっきのことを思い出さないよう、出来るだけいつも通りに他愛のないお喋りをしながら遥と合流してカオリの自宅へ向かう。


 遥は何か複雑そうな表情をしているが、俺の気にしすぎだろうか?


 そうこうしてる間にカオリを無事送り届け、帰路に着く。


 あと2日……何とか元に戻れますように……


 俺は心の底から祈った。

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