第12話反逆の天使と争いの堕天使

こちらシンキの軍事基地ではビーレ大統領救出作戦が実行するため、機体の出撃準備をおこなっていた。


「〈ファング〉は大統領を人質に取り、我々に戦争をさせるように仕向けた。これは絶対にあってはいけないことである。これより作戦を実行に移す。神に祈り、そして戦いを終わらせよ!」


『はい!!』


隊長の命令に選ばれた兵士達は一斉に返事をし、機体に乗り込む。

大統領の居るシェルターの位置は連絡した際に特定している。

モニターのマップを確認しつつ出撃して行く〈ペガサス〉達、ディガーも〈ペガサス・チームレッド仕様〉で続いて出撃する。


「相手はあの〈ファング〉だ。油断するなよ」


先頭を飛行する先輩の1人が後輩達に用心するように指示を出し、シェルターでお出迎えしてくれている〈ビーストキメラ〉達に目掛けて突撃していく。


一方で〈ファング〉のデンジョーとバーズは慌ててビーレ大統領を赤い車に乗せ、自分達の基地に逃げ帰ろうとする。


「なぜだ。なぜ私達の作戦がバレた?」


っても仕方ないだろう。それよりここからおさらばしようぜぇ」


運転する彼は一般道路に入ろうとしたその時だった。


なんと兵士達が戦車で道を塞いでいたのだ。


「なんてこった」


デンジョーが険しい表情をしたと思えば、突然笑い始める。

その理由はバーズが2機の〈ビーストキメラ〉を遠隔操作しているからである。

咆哮のサウンドを流しながら車体を踏みつぶし、放り投げた。


「これでいいか」


内心(世話が焼ける)と思いつつ彼女は大統領の唖然とした顔に鼻息を立てる。


「あぁ、最高だぜぇ!」


喜びの笑いを上げるデンジョーに、救われることに対して諦めを感じ始めたビーレ大統領。

そこに駆けつけたのはディガーが乗る〈ペガサス・チームレッド仕様〉だった。


「こちらディガー。大統領を発見。車に乗せられ人質になっている。援護を頼む」


『無理だ。敵が予想以上にやる。なんとか持ち堪えてくれ』


無茶な指示に息を漏らしつつ〈ビーストキメラ〉に〈イフリート〉の放射口を向け、火炎を放つ。

だが残像を残すほどのスピードで横移動しながら突っ込んできた。


「だったらお前達の速度に合わせてやる」


自信有りげにウィングを着脱し地上戦に臨む赤き天馬は火炎放射器を地面に捨てバックパックからビームサーベルを引き抜き、シールドで身を堅めた。


野獣達もヒートホークを右手に装備し勢いのまま攻撃を仕掛ける。


(サム・イラバ、あんたがやったことは確かに死刑に値する。だが野蛮な奴らの操り人形だった俺達を止めようとしていた。まるで間違った行動を武力で正す天使みたいに)


天使と例えたのサムの事を悪魔だと思ったのを撤回するためである。


(天使に頼らずとも、この戦いを終わらせる!)


しかし1人の兵士としてプライドがある。

反逆者に助けてもらうほど自分は弱くない。

それを証明するためシールドでヒートホークを防ぎ、ビームサーベルで斜めから攻撃を繰り出した。


戦いにおいて数は重要である。

もう1機の〈ビーストキメラ〉がアサルトライフルを連射、装甲のコーティングに助けられたが油断していたことに他ならない。


「逃げられる前にあの車を止めなくちゃならない。急がないとな」


1機を撃墜したが、このままでは逃走を許してしまう。

仲間達が待機しているとは言え大統領を人質に取られている以上、ここで終わらせなければならない。

ディガーは覚悟を決めアサルトライフルを捨て咆哮を上げながら、襲い掛かる敵にビームサーベルで貫くのだった。



軍人に入りたての頃、ディガーは機体に乗るつもりなどなかった。


乗る理由は信頼していた先輩の戦死だった。


後輩のパイロットとしての才能を見抜いていた彼はこの世にもういない。

先輩に何回も勧められていたのでパイロット試驗を受けると、なんと1発で合格し〈ペガサス〉で戦場に出向くことに。

〈ファング〉に操られていた軍は侵攻を進める。

それに対して不審感は確かにあった。


だがやるしかなかった。


従うしかなかった。


逆らえば軍人の恥、そう教え込まれていたからだ。


チームレッドに配属することが決定し車で教会に向かい、神に祈りを捧げようとすると40代ほどのシスターが挨拶あいさつのお辞儀をした。


「こんにちは軍人さん。この教会になにか様ですか?」


その表情は怒りを抑え、引きった微笑みを浮かべている。

そうなるのも無理はない。

神のお言葉に逆らい、戦争を起こしているのだから。


「シスター様、えっと。今日も生きて帰れるようにと神様に祈り捧げに来ました」


「そうでしたか。ではごゆっくりどうぞ。私はまだ仕事があるのでここで失礼します」


優しい言葉とは裏腹に内心では煙たがっているのだろう。

十字架へ神に祈りを捧げると、気持ちを新たに教会から出ようとする。


「軍人さん!」


呼び止めたのは20代前半のシスターだった。


「な、なんでしょう?」


「サムは、サムは指名手配犯では決してありません! 神に逆らったあなた達を止めるために天使となったのです!」


彼女の怒りの発言にディガーは一瞬動揺した。

指名手配犯であるサムの名前、尚且なおかつその彼が軍を止める?

突然の言葉に驚きを隠せない。


「シスター様、今サム・イラバの名を言いましたね。しかも軍を止めるとは一体?」


質問に対してシスターは鼻を軽く鳴らし、説明をし始める。


「サムは捨てられたところを教会に保護されました。私と同年代で、共に学び過ごした楽しき思い出は今も記憶しています。ですが軍人に成り、そして現在裁く者天使と成った。私は

例えサムが反逆者とののしられようと、信じて待っています。戦争を終わらせ、この教会に帰って来ることを」


反逆者でないと、裁かれるのは軍だと、そう豪語する彼女に1人の軍人は「そう………ですか………」と恐ろしい熱料に押され一言しか言えないのだった。



『こちら敵機体を全撃破。そちらは?』


『こちらもだ』


〈ビーストキメラ〉の残骸を確認し、生き残った兵士達は大統領を救出するため道路を封鎖している仲間に連絡をする。

聴こえてきたのは国民の騒ぎ声だった。


「この騒ぎはどうした?」


『戦争反対のデモが起きている。どうやら〈ファング〉の者が消し掛けたらしい』


このままではデモに紛れて逃げられてしまう。

そんな時だった。


なんと〈クローリッパー〉がこの場に現れたのだ。


悪魔の出現に驚いた国民はその場から逃げ出す。


『ほれほれ軍人さんよぉ〜。死神が暴れている間にさっさと大統領を助けに行きな〜』


敵であるリッパーシリーズが今味方をしてくれている。

戸惑いながらも兵士達はこのチャンスを逃すまいと赤い車を戦闘車両で追いかける。


「そこの赤い車両。直ちに止まりなさい」


拡声器で呼びかけるも、〈ファング〉の車は止まらない。


「ふん、ようやくラスボスのお出ましか」


トローの闘争心から生まれた笑みの前に現れたのは堕天使を彷彿ほうふつとさせる漆黒しっこくの翼を持つ白き機体、2本の悪魔の角が右おでこに生え、2つの青く輝くメインカメラがある。

〈ビーストキメラ〉よりも長く鋭い鉤爪、バックパックに収納されたアタックテイル、加速用スラスター10機が搭載された足、その光景は一言で言い表すのならば〈堕天使の降臨こうりん〉と言えるだろう。


「この〈サタナエル〉が、国を争いに導く」


サタナエル。

それは大悪魔であるサタンが神の手のひらで踊っているに過ぎないと宗教で解釈された際に使用される堕天使の名。

そもそもサタンの名は宗教によって存在しない場合がある。

神に従うのは天使、逆らうのが堕天使であり悪魔と言う者が神話としてに書かれていない書物がいくつかあるそうだ。


「争いを生む兵器はすべて俺達が破壊する。お前さんも含めてな」


己の信念を語り死神は妨害電波で自身の姿を隠し、高く跳び上がる。

〈サタナエル〉と名付けられた機体は収納されたアタックテイルを伸ばし、めちゃくちゃな軌道で攻撃を開始した。


(こいつがキーカー兄貴が言ってたアリスのそっくりさんか。サイコキネシスを持っているのは本当らしい。だけどなぁ!)


妨害電波によって相手には自分が見えていない。

だがむやみに攻撃を仕掛ければアタックテイルの餌食だ。


ここは敵の後ろを取りながらビームバルカンを連射すると少女は〈サイコモーション〉に念動力を伝達し〈サタナエル〉のリミッターが解除、メインカメラが赤く染まり残像を残しながら〈クローリッパー〉に襲い掛かる。


「なに?」


ビーム弾の射出音に勘付かれたか、鉤爪で貫かれそうになったのでブースターを起動させタックルで吹き飛ばし、コックピット部分を蹴り飛ばすコンボによって、中の天使に直接的なダメージを与えた。


揺れる操縦席でなんとか立て直し、咆哮のサウンドを流しつつアタックテイルを伸ばす。


「どこを狙ってあがる!」


だが見えない相手に当たるはずもなく、後ろから再び蹴りを食らう。


「クッ、さすがはインギロスの死神。しかしこちらも〈ファング〉として負けられない。この〈堕天使に成り下がった大悪魔サタナエル〉にけて」


少女のサイコキネシスが〈サイコモーション〉を再起動させ、漆黒の翼ブラックウィングに格納された全10機のソードビットを出撃させる。


「行け! 堕天使の羽根よ!」


見えないはずの機体を羽根は追尾して行く。

堕天使の思わぬ攻撃にトローは躱しきれず〈クローリッパー〉のコックピットから脱出する。

そこに〈ペガサス〉のロボット隊が駆けつけ、ビームライフルの銃口を〈サタナエル〉に向けて連射した。


「相棒、まだ魂は俺の中にある。必ず機体を手に入れて復活させてやるからな」


そう言ってこの場から立ち去ろうとすると、兵士に後ろから腕を掴まれてしまう。


「リッパーシリーズのパイロットをようやく捕らえたぞ。さあ軍に来てもらおうか」


「ふん、俺も運がないぜ。だがよぉ〜。死神は再び舞い戻る。それだけは覚えておけよ」


手錠を掛けられ、軍用の車両に入れられる。

厳しい表情をする兵士にトロー不敵に笑みを浮かべるのだった。

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