斬機のリッパー

ガトリングレックス

反逆の正義

第1話戦争を止めるために

森での戦闘。


次々と両断されていく翼を羽ばたかせる機体達。

その光景はまるで車に轢かれたハトの様に呆気なく散っていく。


「リッパーシリーズ1機にここまで手こずるとは」


大型車両で双眼鏡で戦場を覗く指揮官だったが、リッパーシリーズと言った機体から投げられた大剣に車内が貫かれ爆散した。


「お前達の様な小物に俺は倒せない。国の兵士であるお前達ではな」


青き機体とは不釣り合いの赤く強靭な右腕で大剣を引き抜いたのち、背中のマグネット部分にくっつけ、バックパックを起動するパイロットの男性は戦闘後の燃える木々を見て、懺悔の呪文を早口で述べた。



彼がなぜ国と戦っているのか、それは2年前にさかのぼる。

名はサム・イラバ、当時23歳。

長く黒い後ろ髪を武士の様にヘアーゴムで結んでいる。

兵士としてシンキと言う国に仕えていたサムは若くしてパイロットに昇進し、防衛線をまもる任務に着いていた。


防衛線とは国と国の栄目の事を指す。

密売などを防ぐため戦闘用ロボットで監視をしている。


今回も自分の機体である白き量産機〈ペガサス〉に乗り込み、防衛線へ向かった。


〈ペガサス〉の起動力と出力ならば5分で到着する。


「シード先輩、交代の時間なので参りました」


地面に着地し、通信機で仕事中の〈ペガサス〉に受信するとモニターに白人の男性が映し出される。


「サム、お前も真面目だなぁ。まあ時間にキッチリ来るのは良いことだ。最近の兵士はヘタレが多くてな。期待してるぞ」


先輩のシード・カイは新人である彼の仕事に対しての真剣さを褒めながら、機体の翼を羽ばたかせ、バックパックを起動する。


「はい! これからも精進いたします!」


コックピットで敬礼するサムをモニター越しに観て微笑みながら同じく敬礼を行い、休憩のため基地へ向かって行った。


「よし、頑張るか」


独り言を言いつつ配置に着いた彼はメインカメラを見つめ、その場で待機した。


しばらくして車両が誘導されゲートを通過していく中、怪しいトラックを確認する。

運んでいる貨物があまりにも大きすぎる。

さらにメインカメラでスキャンを行うと、ミサイルらしき影が観えた。

すぐ様搭載されているスピーカーを使い「そこのトラック止まりなさい」と指示を出し、横道に移動させる。


「その大きな貨物、危険物が紛れていることをメインカメラでスキャンしました。なので再確認させて頂きます」


「え、えぇ」


なにやら運転手の男性が動揺している。

しかも歳は70代後半ほどに見える。

この地域では年齢が70歳を超えると運転免許が剥奪されるルールがある。

つまり遠くの国からここまでやって来たことが分かる。


「この範囲ではあなたの様なご老人が運転してはいけない決まりがあるんです。残念ですがゲートを通らせる訳には行きません」


「そんなバカな。俺はただこの国の軍人に頼まれてぶつを運んで来ただけだ。ちゃんと証明書だってある」


そう言って取り出したのはシンキの軍に貨物を運ぶように指示が書かれた証明書だった。


再びメインカメラでスキャンすると、本物であることが判明し、サムは内心驚きを隠せない。


(この国がミサイル? 今どきそんな物を保有して何になる。まさか………だよな。シンキ国がそんなことするはずがない)


別国から武器を調達し、戦争なんてする国ではない。

そう、戦争はなにも生まない。

あるとすれば金持ちの稼ぎになるぐらいだ。


しかしここでこのトラックを通さなければ自身のクビが危うい。

国に従う者としては自分の独断で行動することは許されなかった。


「すいません。私では判断がつかないので、本部に連絡させて頂きます。もうしばらくお待ちください」


念の為本部に報告する。

きっとこれは間違いなのだと信じたかった。


「早くしてくれ。俺にもまだ仕事があるんだ」


文句を言われつつスピーカーを切り、オペレーターに連絡を取る。


「こちら防衛線に配備されたサムです。ミサイルを貨物に載せたトラックの高齢運転手が証明書を持ってゲートを通過しようとしていますがどうしましょうか」


『そのまま通してください』


即答だった。


耳を疑いたくなるほど早かった。


なぜこの国がミサイルなどの武器を欲しているのか、それが理解できない理由があった。



孤児だったサムは教会のシスターに育てられた。


なぜ産んだ親が自分を捨てたのかは心底どうでもよかった。


育ての親の温もりさえあればそれでよかった。


シスターの教えを心に刻み、人を守る仕事がしたいと軍の厳しい訓練を受ける。

合格した彼を皆誇らしいと声を投げかけられた。


そして兵士に成る日を迎えたサムにシスターは言った。


「この国は平和の神様に支えられています。サム、戦争などと言う野蛮やばんなことをする様な兵士ではなく、今を保つ立派な兵士に成りなさい」


その言葉を信じ、平和のため兵士としてここまでやって来た。


だが、今の現状は違う。

命令に従うだけの操り人形に過ぎない。


『サム兵、どうしました?』


考えをまとめていたサムにオペレーターが声を掛ける。


「いっ、いえ。なんでもありません」


『とにかくそのトラックを通してください』


「分かりました」


不満を押し込め、声を震えないよう神経を使う。

通信を切りサムはスピーカーを切り替え、トラックをゲートへと誘導した。


それから1週間が経過した。


次々と運び込まれる兵器を見続けたサムは察したようにトラックを通していく。


(シスター、俺は戦争に加担しているのでしょうね。あなたの言う立派な兵士には成れませんでした。申し訳ありません)


感情を押し殺し任務を続ける彼だったが、転機が訪れたのはそう遠くなかった。


先輩の付き合いでバーへ向かい、つまみのウィンナーを頂きながらビールを飲み始める。


「リッパーシリーズ、ですか?」


「知らないのか? 正義の味方を語る殺戮さつりく集団が乗ってる機体名だよ。どうやら武器を破壊することが目的らしい。この国も最近戦争のために兵器を溜め込んでいるだろ。軍からも危険視されてる奴らだ。いずれ戦うことにはなるだろうからな。用心しておけ」


そう語ってジョッキに入ったビールをグビグビと飲む先輩に、サムはのリッパーシリーズのパイロット達のやり方は間違っているとは思いつつ国の保有している武器をすべて破壊してほしいと言う考えを持ってしまった自分が腹黒く思えた。


次の日、〈ペガサス〉に乗り込みいつも通り防衛線に向かう。

ゲート前にはなんとシードが乗った機体がリッパーシリーズの1機であろう剣を右手に持った青き機体が戦闘をおこなっていた。


「シード先輩!?」


咄嗟とっさにバックパックから2本あるビームサーベルを取り出し、光の刃を起動する。

上空から翼を羽ばたかせビームサーベルで敵を切り裂こうとするが、頭部からビームバルカンを浴び右側の翼を破壊される。


「バルカンでこの破壊力!? あの機体は化け物だ!?」


バランスを崩し地面に落下していくが、何とか足から不時着する。


『こちらシード。サム、俺達の装備ではこいつを撃墜することはできない。早く本部に連絡してくれ。グワァー!?』


シードから通信が届くがその最中剣でコックピットを貫かれ、引き抜いたと思えばさらに右ななめに両断、その場で爆散した。


その剣技はまさに達人クラス。

こんな者に自分が勝てる訳がない。

しかし連絡しながら回避し続けるのは無理だろう。


「やっ、殺るしかない………」


片翼を着脱し、地上戦へと打って出る。


(相手の武器は剣とビームバルカンだ。剣を持つ右腕を切り落とし、腹部のコックピットを貫く。俺にできるか?)


〈ペガサス〉の機動性はおそらく相手より優れている。

それがすべて物の救い。

しかしその事はリッパーシリーズもシードとの戦いで理解しているはず。


「それでもやるんだ。ウォォォ!!」


翼を自ら捨てた白馬はその足で先輩を殺害した悪魔に突っ込んでいく。

剣を構え、カウンターを仕掛けるリッパーシリーズ。

しかしサムはビームサーベルを逆手に持ち替え、槍投げの要領ようりょうで投げつけた。


光の刃が右腕を貫き、使用不能にしたところで追い討ちの2本目であるビームサーベルがコックピットを貫いた。


パイロットを失った機体は力を失い、その場で倒れ込む。

だがその時にはサムの頭はネジが飛んでおり、戦果よりも青き悪魔を手に入れるチャンスに内心歓喜していた。


〈ペガサス〉を乗り捨て、リッパーシリーズに乗り込むと戦争に駆り出されるプレッシャーから解放された気がしたあと、その場から撤退する。

幸いにもコックピットはモニター部分が破損したほどで済んだので、操縦は可能だ。


焦げた臭いに耐えつつ、シンキ国のすべて兵器を破壊するため作戦を練ることにした。


リッパーシリーズを修理するため業者に依頼し数週間、戻ってきた頃には右腕は赤く強靭な物となり、背中には大剣が強力マグネットでくっついている。

業者のセンスを疑う機体に変わり果てたが、サムにとって好都合だった。


「戦争など絶対させない。必ず俺の手で止めてみせる」


国を裏切った彼はこうして兵器を次々と破壊して回った。


そして今に至る。


夜になったので機体を木々とシートに隠し、焚き火で暖を取りホットミルクを飲む。


(シスター、俺は正義が分からなくなりました。戦争をしようとしている国。神を裏切る行為をした者達に裁きを与える俺。どちらが正しいんでしょう)


そう悩みながらホットミルクを飲み続けると、微細だが足音が聞こえて来る。


(この足音。子どもか?)


もしかしたら少年兵の可能性がある。

油断はできないとビームガンを構えた。


「動かないで」


背後から少女の声が聞こえる。

しかもまだ幼い。


「俺になんの様だ。まさか殺しにきた………とかじゃないよな?」


「そのまさか。お兄ちゃんの仇、取らせてもらう」


「そうか。だがお嬢ちゃん。俺に勝てると本当に思ってるのか?」


サムは素早く後ろを振り返り、赤い瞳をしたツインテールにまとめた金髪の少女が持つビームガンの銃口を撃ち抜き使い物にならないようにする。


「悪いが、俺は戦争を止めるために戦っている。俺に向かって行った兄が悪い」


「違う! あなたはお兄ちゃんを殺し、その機体であるソードリッパーを悪用している。それが許せないの!」


ソードリッパー。

その名を聞いた瞬間、彼女も先輩から言われた殺戮集団の1人なのだと。

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