第2想定 第7話

 今日は基地で待機の日。出動指令どころか他の部隊の出動情報も入電することのない平和な一日だった。

 しかし今日の俺はずっとそわそわして落ち着かなかった。

 なぜなら今日は舞香の九州大会。

 どうしても舞香の顔が思い浮かんでしまう。

 もう夕方だ。結果が出ていてもおかしくはない。そのうち連絡がくるだろう。

 それまで飯を食って風呂に入ってゆっくりと待つか。

「ああ、それじゃあ」

 隣で通話していた姪乃浜が電話を切った。

「どうしたんだよ姪乃浜。そんな嬉しそうな顔をして」

「ちょっと群馬SSTの隊長から連絡があってな」

 群馬県といったら関東地方だろ。

 なんでそんな遠いところの、しかも僻地が宮崎に何の用なんだ。

「何か嬉しい知らせか?」

「いや、ただの近況報告だ」

「ふ~ん」

「ヤツはSSTの指揮官養成課程の唯一の同期だからな」

「指揮官の訓練ってそんなに人数少ないのか?」

「隊長副隊長合わせて全国で百十人しか必要ないからな」

 それにしても姪乃浜の世代って二人そろって僻地に飛ばされたんだな。

 まぁ群馬よりも宮崎のほうが都会だけど。

 群馬県民、知ってるか?

 宮崎県は電車が一時間に一本も来るんだぜ?

 しかも路線が日豊本線、都城線、日南線に加えて宮崎空港線の四路線もある。しかも県で最も大きい宮崎駅は四番のりばがあるほどデカいんだ。しかも自動改札機が置いてある。それに加えてリニアモーターカーの実験施設があった。群馬県なんてリニアモーターカーどころか新幹線すら通っていないだろ?

 それに宮崎といえば『みやざき犬』ってマスコットキャラクターが三体もいるんだ。群馬県って船橋市をモチーフにした梨の妖精だけだろ?

 ということは姪乃浜のほうが少しだけ成績が良かったのかもしれない。

 俺は手元の書類に視線を戻した。

「はぁ~……というかなんでパラシュート訓練があるんだよ」

 数週間後に予定されている山の中での訓練計画書を見ながら疑問を口にする。

 というか今は十七時二十分。とっくに定時は過ぎている。

 なんで仕事が終わった後にも仕事をしなければならないんだ。給料変わらないんだぜ?

「人間が立ち入れる場所だったらどこでも作戦ができるようにしておかないとね。それにヤンデレワールドの高度が高かったらヘリでの隠密潜入はできないから空挺降下になるんだよ」

 姉ちゃんがピストルを分解しながら俺の疑問に答えてくれる。

 デカいスライド。

 ぶっといグリップにマガジン。

 45口径の銃身バレル

「空挺降下なんて実戦で使ったことあるのか?」

「あるよ。ね、姪乃浜」

「そうだな。宮崎SSTうち第七管区九州で唯一パラシュート降下ができる部隊だからな。他県に駆り出されることもある」

「そもそもなんでうちなんだ?」

「高橋が昔、陸自の空挺団にいたし前任者も空挺団出身だったからな。その経験をうちで活かしてもらっているんだ。自由降下フリーフォールもできるらしいぞ」

「嘘つけ! アレはどう考えたって空挺団通り越して特殊作戦群じゃねぇか!」

 高橋二等愛情保安正――。

 作戦中は機内整備士でホイストマン。

 訓練では格闘教官にして戦術教官。

 そしてやたらと脱ぎたがる変態マッチョマン。

 陸上自衛隊の出身で看護科。英語と中国語が堪能で狙撃、モールス信号も得意。救急救命士と看護師の資格を持っていて、しかも自由降下フリーフォールも含めた空挺降下ができる。

 どう考えたって空挺団ってレベルじゃない。

 明らかに特殊作戦群顔をだしちゃいけない部隊の出身だ。

「そこには触れてくれるな」

「そう言ったら正解だって言ってるようなものだぞ。……ところで姉ちゃん、なんでうちにMk23ソーコムピストルなんてモンがあるんだ?」

 Mk23ソーコムピストル――。

 アメリカ特殊作戦軍ソーコムの要請によってドイツの銃器メーカーが開発した攻撃用拳銃だ。

 特殊作戦に使用することを想定して開発されたため、銃身バレルを交換することなくサプレッサーを装着することができる。さらにサプレッサーに干渉しない大型の照準器サイト付き。マンストピングパワーに優れた45ACP弾を12+1発装填できる上に、装薬ガンパウダーを増やした+P弾強装弾にも耐えうる強化スライド。

 このうえない高性能拳銃なんだけど、それにしてもなぁ……。

「これのこと?」

「日本の公安機関――ましてや予算不足のSSTが導入できるような代物じゃないぞ」

 このピストルは高性能すぎて本体だけでも二〇万はする。

 専用のサプレッサーやレーザーサイト、フラッシュライトを含めればそれ以上の出費だ。

 危険手当すらケチってるSSTに導入できる代物ではない。

「ああ、それの事か」

 姉ちゃんの代わりに姪乃浜が俺の疑問に回答するようだ。

「宗太郎がいつも使っているシステムは日本が発見、実用化した代物だ」

 システム――正式名称『SSTサポートシステム』。

 これはSST隊員の任務を支援する機能のことだ。射撃や格闘をはじめとした戦闘技術のアシストをしてくれる。さらに万が一ヤンデレに殺されたとしても、三回までなら蘇生することが可能なのだ。ただしこのシステムを組み込むにはそれに適した体質を持っていることが条件だ。

 まぁ俺のなかでは『俺TUEEEEシステム』と呼んでいるけどな。

「それをアメリカ政府に提供したら――」

「見返りとして貰ったわけだな」

「そうだ」

「不良在庫押し付けられただけじゃねぇか!」

 おい隊長姪乃浜、知っているか?

 アメリカ軍でのMk23の扱い方。

 使いづらくて倉庫に眠らせているんだぜ。

「なにもアメリカから貰った銃はこれだけじゃないぞ。他にはMP7とかM249とか。たしかM82も一丁だけ入ってきたって話だぞ」

「なんでよりにもよってMk.23ソーコムを選んだんだ!」

 それだけ種類もあったら他に使いやすいやつがあるだろ。

「それならありさに聞け」

「……姉ちゃん?」

「だって45口径だったのこれだけだったもん。ストッピングパワーは大事だよ」

「うちにM1911ガバメントがあるだろ?」

「だって装弾数が少ないじゃん。こっちは12発と1発だもん」

 ………………。

「で、本音は?」

「大きい銃ってかっこいいからね。それにスネークも使ってた拳銃だし」

 忘れてた。

 姉ちゃん、スネークが大好きだった。正確に言うとソリッドのほう。

 まぁ姉ちゃんが喜んでいるならいいか。

 好きな銃を使っていれば士気もあがるだろうしな。

「宗太郎も今度使ってみる?」

「いや、遠慮しておく」

 45口径ならM1911ガバメントで十分だし。

「愛梨は使ったことあるのか?」

「ないわよ。そんな使いにくいやつ」

 隣で学校の宿題をやっている愛梨に話をふる。

 使ったことがない、というよりも使いたくないといった言いぶりだ。

 この拳銃の最大のデメリットはデカいこと。

 体の大きなアメリカ人でさえ、あまりのデカさに使用を敬遠するぐらいだ。

 そのため採用されたにもかかわらず速攻で倉庫行き。実戦を経験せずに後継のMk24に制式拳銃の座を奪われたのだ。実戦経験といえば自国民救出のためにナイジェリアに潜入したネイビーシールズがサイドアームとして使っていた。地元民族を襲撃していた反政府軍を気づかれずに排除していくために使用したのだ。ただしそれは映画での話だったけどな。

 そんな使い道に困るようなピストルをわざわざアメリカから貰ってきて使っている姉ちゃんが変わっているのだろう。

「というか愛梨、お前はお前で何やってるんだ?」

「宿題」

「そういうことじゃなくてだな」

「なに? アンタの学校って夏休みの宿題出てないの?」

「出てるけどさ」

「休憩時間とか見つけてやらないと最終日に泣くわよ」

「大丈夫だろ。俺のドッペルゲンガーがやってくれてる」

 俺たちSST隊員は学生も多い。

 つまり学校に行かなければならない人々だ。

 しかし一週間単位も基地で待機しなければならない。

 そこで活躍するのが隊員のドッペルゲンガー。俺たちの代わりに学校に行ってくれて日常生活を送ってくれるのだ。

 さっき説明したSSTサポートシステムが関わっているらしい。記憶は共有されるし判断は無意識のうちに本体へ問い合わせが行くらしい。本体とドッペルゲンガーが遭遇すると死んでしまうというバグもあるらしいが、詳しいことは分からない。

 しかし便利な存在ということはたしかだ。

 夏休みの宿題も俺のドッペルゲンガーがやってくれるはず。

「そのドッペルゲンガーも同じことを考えていると思うわよ」

「俺がスキマ時間を見つけて宿題をするだろうってか?」

「そうよ。逆の立場だったらそう考えるでしょ?」

「だけど俺のドッペルゲンガーはやってくれる」

なぜなら本体が優秀だからな。

 当然、コピーであるドッペルンゲンガーも優秀だろう。

 優秀だから宿題もやってくれる。

 頼んだぜ。

 夏休みが終わったら会いに行ってお礼を言わなければな。

「それに俺が経験したこともむこうに共有されるんだろ? 宿題くらいやってくれたってバチは当たらない」

「アンタの経験って任務中に殺されたとか、そういう苦しいことばっかりじゃない。ドッペルゲンガーにとっては迷惑よ」

「なにおう! 昨日は彼女と映画デートしたんだぞ?」

「映画?」

 お、なにか食いついたぞ?

 もしかして愛梨って映画が好きなのか?

「『君の子。』、見てきたぜ」

「私、まだ見てないのよね。ネタバレしたら殺すわよ」

「おう! 分かった! だけどあれは絶対映画館で見るべきだぞ。主人公がバイクを盗んで警察に追われるし、暴力団を襲って暴力団事務所にも追われるんだ。それから発電所を爆破して結局警察に逮捕される。だけど関東地方を豪雨から救うために自ら人柱になろうとしている少女を助けるために警察署から抜け出すんだぜ? 最後の最後に警官に追い込まれるんだけどそれを振り切って主人公とヒロインは再開する。そしてヒロインが言うんだ。「君の子だよ」ってちょっと!?」

 座っていたパイプ椅子を蹴り飛ばされ、俺は床に尻餅をついた。

 ちょっと待てよおい!

「ぶっ殺す!」

 最後に見たものは、鬼のような形相で拳を振り上げた愛梨の姿だった。


「………………う~ん」

 気がつくと俺は待機室のソファーで横になっていた。

 机では姉ちゃんがMk23の分解清掃を続けている。

 まだそんなに時間は経過していないようだ。俺は体を起こして呟いた。

「全くひでぇよ」

「だって愛梨は映画好きだからね」

 あいつネタバレされたから殴ってきたのかよ。

 だったらちゃんと最初に言えよな。

 言ってくれればネタバレなんてしなかった。

「宗太郎ってつくづくバカだな」

 書類を整理していた姪乃浜が口をはさんだ。

 俺のどこがバカだって言うんだよ。

 バカっていうのは言われた事をすぐに忘れる奴、やった事をすぐに忘れるような奴を言うんだぞ。知っていたか?

「というか最近愛梨のやつ、最近物騒だよな」

 ことあるごとに「殺す」だとか「ぶっ殺す」だとか。

 それに最近よく殴ってくる。

「愛梨って意外とコミュ障だからね。あれも愛情表現だよ」

 ボコデレかっての。ファミレスでバイトしてろよ。

 殴られる俺の身にもなってほしいものだ。

死ぬぞ、俺が。

 痛む頬をさすりながら呟いていると大牟田姉妹が入室してきた。

「おう宗太郎」

「よう郁美」

「なんか愛梨が怒ってたぞ。なにかしたのか?」

「いや、特に何もしてないぞ」

 映画の話をしていたら突然ぷっつんしただけだ。

 全く理不尽な話だよな。

「またまたそう言って。本当は愛梨に欲情してチ○コ勃たせたんじゃねぇのか?」

「するわけねぇだろ!」

 そんなことしたらシャレにならない。本当にぶっ殺されてしまう。

「というか隣に美雪がいるじゃねえか! ここでチ○コなんて言うんじゃねぇ!」

 大牟田美雪。

 郁美の妹にして双子の片割れ。

 男勝りで下ネタ大好きな郁美とは違い、下ネタが大っきらいな清純派女子高生。なぜ双子でここまで性格が違うのだろうか。もし彼女の前で『チ○コ』なんて口を滑らそうならば容赦なく股間を蹴り上げられる運命が待っている。男のキンタマを握り潰す郁美と蹴り潰す美雪。ここは双子の共通点というのだろうか。男の俺としては似て欲しくない部分だけど。

「なんだ? 美雪にチ○コ蹴られるのが怖いのか?」

「怖いに決まってんだろ!」

「そんなでビビるなんてお前の肝っ玉はチ○コみたいに小さいな。チ○コ野郎だ。今日からお前は宗太郎じゃなくてチン太郎だ」

「ちょっと黙れよ」

 チ○コ蹴られるのは俺なんだからな?

 それと俺のムスコ大佐を舐めるんじゃねぇ。チ○コだけに。

「上の口は黙っても下の口は黙らねぇぜ?」

「お前一応女子高生だよな!?」

 女の子がそんなこと言うんじゃありません!

「言っておくがオレは処女だぜ? 興奮するだろ?」

「しねぇよ!」

「ちなみに美雪も――」

 郁美が爆弾発言をする直前、標的にされた美雪は姉を突き飛ばした。

 そして俺と正対。

「宗太郎、サイテー」

「今のは俺悪くねぇだろ」

 まるでチンカスを見るような蔑んだ表情をした美雪は、アサルトスーツに包まれたその脚を持ち上げ、俺の股間へと伸ばした。

 コンバットブーツの固い靴底の感触が伝わってくる。

「おいちょっと待て!」

 美雪はガガガっと俺の股間を蹴り始めた。

「アアアアアァァァァァッッッッッ…………………!!!!!!! ちょっ、待って……おうっ! ああっ!!!」

 男ならば誰もが悶絶する苦痛。

 鋭い痛みではない、鈍い痛み。

 脳みそが現実から目をそらしたのか、それとも誤作動を起こしたのか。その言葉にできない激痛が徐々に快楽へと変わっていった。

「美雪。宗太郎のやつ興奮してるぜ」

「おいバカ!」

「この変態!」

 ガシガシと一発一発の衝撃が重くなる。

「おっ……おっ……おっ……おうっ!」

 踏まれるほどに硬直していくムスコ大佐。

 新しい扉が開かれていく。

 ちょうどその時スマホが鳴動した。

「ちょっと美雪! どいてくれ」

 俺は彼女の脚を振り飛ばし携帯に飛びついた。

 画面には長伊土舞香と表示されている。

「舞香、どうだった?」

 乱れた呼吸を整えながら肝心の話題に触れた。

「宗太郎、大丈夫?」

「ちょっとち〇こで遊んでいただけだ」

「………………」

「で、結果は?」

「……金賞。だけどダメだった」

「そうか、ダメ金か」

 優秀な演奏でも次の全国大会へと進めない金賞。それがダメ金だ。

 だとしても立派な成績であることには変わりはない。

「お疲れ様の会をしないとな。帰ったら夏休みのどこかで遊びに行こう」

「わかった。これからバスに乗って帰るから、明日にまた連絡するね」

「了解、それじゃあな」

 通話を切って、携帯をソファーの横に置く。

「悪い、ちょっと大事な電話だった」

「宗太郎ってバカというか、ちょっとヤバいよな」

 姪乃浜が呆れていた。

 さっきの会話のどこにヤバい要素があったんだよ。

 俺はいたって健全健康は男子高校生だ。

 何か言い返そうと気の利いたセリフを考えていたら指令室につながるドアが勢いよく開かれて奥から隊員が出てきた。彼はSSTの戦闘支援班。俺たちの作戦を支えてくれる裏方部隊だ。

「隊長、鹿児島で海難です」

「要請は?」

「まだ入っていませんが大型客船が沖で炎上しているそうです」

「飛行隊にいつでも飛べるように伝えておいてくれ」

「了解」

 そう指示を出しながら姪乃浜はリモコンを手に取ってテレビに電源をつけて番組を変える。チャンネルを二回ほど回したところでニュース番組に切り替わり、宮崎県のローカルニュース番組に切り替わった。

『第十管区海上保安部によりますと、火災が発生しているのはロシア船籍の大型客船、イヴァンテエフカとのことです。こちらの客船は世界一周旅行の途中で本日の朝まで鹿児島港に停泊しており神戸港へと向かう途中に火災が発生したとのことです。現在、日本人の被害は確認されておりませんが第十管区海上保安部では巡視船とヘリコプターを派遣し消火活動を行っています』

 映像が中継に切り替わる。陸地からの映像だけどもそれでも黒煙がもくもくと上がっていることが確認できる。これは大規模海難に認定されているだろうな。

「みんな、吊上救助資機材と救急キットをヘリに積み込んで。それが終わったら空気呼吸器の点検もね」

 姉ちゃんは指示を出しながら分解していたピストルをあっという間に組み立てる。

 防火衣を着て空気呼吸器を背負っての消火活動なら基本的なことならばできるように訓練しているが、それを実戦で装備するのは初めてになるかもしれない。

 俺たちは一斉に待機所を飛び出し装備品倉庫へと向かっていった。


《ビ――――――!》

『出動指令。鹿児島県大隅海峡、沖二十キロ。海上作戦特命増強出動』

 資機材の積み込みと装備の点検を終えたあと、いつ応援要請が来てもいいように待機所で待っていると案の定指令が出た。

 しかし救助活動の応援要請ではない。愛情保安庁の管轄としての出動指令だ。特命増強出動――他の県のSSTの応援に向かうという意味だ。

『出動部隊、特殊二、七〇八空』

 さっきの放送では現場は大隅海峡の沖って言っていたな。ということはさっきニュースで流れていた。

 俺たちは跳ねるように椅子から立ち上がり、隣の指令室へと駆け込んだ。

 指令室では複数のモニターに現場海域のレーダー情報が移っている。別のモニターを見ると鹿児島SSTの第二戦闘班の隣に『出動準備中』と表示されている。今回の作戦はその部隊との共同作業だ。

「どうやら炎上中の客船、イヴァンテエフカでヤンデレ事案が発生したらしい」

 全員が集まったことを確認した姪乃浜が状況を説明する。

「ただでさえ火災現場で混乱している状況だから二次災害の危険がある。消火活動と避難誘導は海保に任せ、SSTではヤンデレの対処に集中する。通常の戦闘装備で出動だ」

「現場への突入はどうする?」

「海保に巡視船を回してもらって巡視船に乗り換える。さすがにあの格好ではな……」

 ただでさえ海難現場はパニック状態だ。

 そんな状況で銃を持った連中が甲板に降下してみろ。救助活動の収拾がつかなくなってしまう。

「宮崎と鹿児島の合同でまずはヤンデレの検索を行う。発見したら一応鹿児島の管轄だから鹿児島SSTが鎮圧活動を行う。ヤンデレを連中に引き渡したら俺たちは避難誘導の応援だ」

 他に質問はないな? と姪乃浜は疑問点がないことを確認すると、俺たちは一斉に指令室を飛び出して出動準備に取り掛かった。

 今回は防弾チョッキは着ないほうがいいな。できるだけ早くヤンデレを見つけるために装備品をできるだけ減らして素早く移動できたほうがいい。それにそんなヤバそうな格好をしている俺たちを見た民間人は動揺してしまうだろう。周りを見るとみんな考えは同じようで誰もチョッキを着てはいなかった。

 ハーネスを体に装着してそれぞれのポーチにこまごまとした携行品をねじ込み、武器庫に向かう。サブマシンガン用とピストル用のマガジンとスタングレネードをポーチにぶち込んで、ロッカーから自分のMP5サブマシンガンUSPピストルを取り出す。姉ちゃんはさっき整備していたMk23を持っていくようだ。

 準備を終えて部屋と出ると、ヘリむくどりが格納庫からエプロンへと引き出され、電源車から電力の供給を受けながらメインローターの暖機運転をしていた。全員がむくどりに乗り込んでドアを閉鎖。機長の小川さんは英語で淡々と管制塔と交信している。離着陸待ちの飛行機に割り込んで離陸権限を貰っているのだ。しばらくしたところで空域の安全が確保できた。小川さんが「テイクオフ」と宣言するとエンジンが高く唸り、ふわりと空へと飛びあがった。

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