空飛ぶ円盤“魔王城”

 魔王バシレウステオのお膝元であるサロニカ王国は、魔物によって征服された国々から略奪した富が集まった事で、過去に類を見ない繁栄ぶりを謳歌していた。


 市民の生活は貴族並に豪勢になり、一年前までの衰退ぶりが嘘のようである。


 しかし、サロニカ王宮では徐々に焦りの声が出つつあった。

 大陸中部への侵攻が予定通りに進まなくなったからだ。


「ラリッサに侵攻した魔物軍団ですが、ラリッサ近隣に建てたルシフェルの塔が破壊されてしまったために、大部分がこちらの管制下から外れて行方不明になっております」


魔王バシレウス様、ラリッサの攻略に失敗したとなると、これは由々しき事態ですぞ」


 テオに仕える大臣一同は危機感を主君に訴える。

 しかし、テオは特に動じた様子は無い。


「心配は要らんさ」


「と、言われますと?」


「僕等を勝利へと導く魔王城まおうじょうが遂に完成したのさ。北部未開拓地域マルドニアから招集した魔物も準備は完了した。そろそろ最後の決戦と行こうじゃないか」


「「御意!」」



 ◆◇◆◇◆



 都市国家ラリッサを包囲していた魔物は、ルシフェルの塔が無くなったのを境に、散り散りになって姿を消していた。

 そのおかげで都市の包囲は崩れ去り、ラリッサは平和を取り戻していた。


「いや~。あのルシフェルの塔とか言う塔が無くなってから、魔物がいなくなるわ。援軍も来るわで、良いこと尽くめね!」


 ケルベロスの唾液の毒から回復したミカエルは、援軍と共にやって来た物資を豪快に兵達に振る舞って酒宴を開いていた。


「し、師匠、いくら何でも飲み過ぎです。一応、今は戦時なわけですし、それに僕等は修道き、」


「固い事を言わないの! こんな時くらいはパッーとやらないと!」


「師匠はいつもパッーとやってるじゃないですか」


「うわ~テセウスが酷い事言った。私だっていつもは清貧・貞潔・服従を旨とする修道女として、粗食に耐え、聖王神ゼルス様に祈りを捧げているのよ」


「へぇ~、そうですか」


「酷い! あ~テセウスも昔は純粋無垢で可愛かったのに、今ではすっかり……」

 そう言ってミカエルは、目元に手を添えて泣く素振りを見せる。


「はいはい。分かりましたよ。僕が悪かったです」

 テセウスはやれやれという風な態度を取りつつ、ミカエルの頭を撫でる。

 まるで泣く子をあやす母親のように。


 その時だった。

 祝賀会場の広間に、一人の兵士が血相を変えて現れた。


「き、騎士様! 大変です!」


「何よ。せっかく良いところだったのに」

 ミカエルは分かりやすく頬を膨らませる。


「も、申し訳ありません。ですが、外を、外へ来て下さい!」


「はい?」


 兵士に促されるまま外に出ると、まだ昼間だというのに空は妙に暗かった。

 なぜかと思い、空を見上げると、ラリッサの上空には巨大な鋼鉄の円盤のようなものが浮かんでいる。


「な、何よ、あれは!?」


「し、師匠、何か降ってきますよ」


 テセウスが空飛ぶ円盤を指差す。

 そこからは何か小さな粒のようなものが雨のように降り注ぐ。


 しかし、地上に近付くにつれて、それが単なる雨でも粒でも無い事は誰の目にも明らかだった。


「ま、魔物だ! 魔物が降ってきたぞ!!」


 雨のように降り注ぐ無数の魔物。

 それが質量爆弾となって都市ラリッサに降り注ぐ。


 都市の家々に魔物が落下して破壊する。

 落下の衝撃で魔物も多くは死んでしまうが、それでも生き残った魔物は動き出して暴れ回った。

 逃げ惑う市民を襲って食い漁り、祝宴ムードだったラリッサの町は一瞬にして地獄絵図へと塗り替えられた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る