空蝉のエレジィ

かごめ

プロローグ

 父様、母様、どうして私を生み出したのですか?


 そう尋ねる夢を見ました。


 あなたは夢を見ますか?


 私は見ます。


 どうして私を生み出したのか、そう尋ねると、〝たった一人だけの父様と母様〟は何も言わずに私を抱きしめ、頭を撫でてくださいました。見たことはなくとも、知識として知っている赤子のようで恥ずかしいという気持ちもありましたが、私の心は空虚を満たすほどに高揚し――いえ、この躰から飛び出してしまうほどに、私の心は歓喜を叫びました。


 ですが……私にはもう父様も母様もいません。夢のように撫でてくださる方も、私を見て褒めてくださる方もいません。私に残されたのは、命を育めない私の躰、空虚な屋敷、血の繋がらない入れ物ばかり……。


 わかっています……もう父様も母様も帰って来ないのだと。もうこの世にはいないのだと。


 それでも、私はこの鳥籠の中で、折れた翼と共に唄います。この唄声が、白濁の闇を抜けて、父様と母様が生きる世界へ届いてくれれば、もしかしたら私を迎えに来てくれるかもしれない……。


 そんな叶いもしない願いを唄に託し、私は今日も唄います。どうか……どこかで私の呼び聲に気付いてくださいませ……。


 父様、母様――。

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