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 ……その日、ジョシュアは古き友人を誘って飲みに来ていた。腐れ縁の怪物二人、ジョシュアが唯一心を許せる友だ。先に着いた死神のリーパーはもうすでに飲み始めていた。ジョシュアはカウンターで酒を注文し、席に戻る。そして少し落ち着かない様子でリーパーに近頃の自身の心境の変化について相談した。




死神

「はぁ?クリスの事が気になってる?」



ドラキュラ

「ば……馬鹿、声がでけぇよ!」



死神

「寝すぎて時差ボケでもしてんじゃねぇの?いい加減に年に二回くらいは起きとけば?」




 そんな皮肉を言う死神のリーパーが樽のテーブルの上で肘をつき、「くだらん」と言いたげにフライドポテトを口に放った。大きな樽をテーブル代わりにしているラフなスタイルのこのバーは、怪物たちの行きつけになっている。夕暮れ時になると活発になる怪物達。そろそろ賑わってくる頃だろうか、客の出入りが多くなってきた。




ドラキュラ

「はぁ……やっぱり話す相手を間違えた!こんなん骸骨にビールでも持たせて話し掛けてる方がよっぽどマシだわ。」



死神

「ならウェアにでも言ってみろよ、まぁあいつもきっと同じ事言うだろうね。」



ドラキュラ

「……俺にはろくなダチが居ねぇな。」



死神

「あ?勘違いすんな、イカれてるのは俺らじゃなくてお前だよ。大体、異種ってだけでも驚きなのに同性って何のこっちゃだろ!ただのお前の思い違いだよ、クリスだって普通に女が好きだろ。」



ドラキュラ

「分かってるよそんな事。」



狼男

「お待たせぇ~!お前ら、元気にしてた??」




 そう言って爽やかに登場した狼男のウェア、優しい笑顔を振りまく癒し系男子だ。




ドラキュラ

「遅いじゃん、何してたの?」



狼男

「聞きたい?」




 「別に」と言って面倒くさそうにビールを流し込むリーパーをさておき、ウェアはどうしても話したそうにウルウルとした瞳でジョシュアを見つめる。




ドラキュラ

「………はいはい、いいよ、話してごらん。」




 ジョシュアからのそんな言葉に、ウェアは「やった!」と嬉しそうな顔をして話し出した。




狼男

「穴倉を出ていつもみたいに獣道を歩いてたらね?ミイラのカップルが目の前を歩いてて……」



ドラキュラ

「………!」



狼男

「ほら、あいつらってさ、包帯グルグル巻きじゃん?だからどっちが男でどっちが女だか分っかんねーなーって思いながら後ろから眺めてた訳よ。」




 初めは興味が無さそうに聞いていたリーパーだったが、次第にウェアの話に興味が湧いてきたらしく、ビールジョッキの取っ手を持ったまま話の続きに耳を澄ませている。




狼男

「そしたらさ、片方がいきなりキスしだして!いや、多分……てか普通に考えて男の方がしたんだと思うけど……キスした方はもうがっつりミイラ!って感じの顔だったんだけど、された方は何か……人間っぽいようなミイラっぽいような……何て言ったらいいのかな?」



死神

「何をゴニャゴニャ言ってんだか……ったく、どいつもこいつも時差ボケか!」



ドラキュラ

「そんで?そのキス“された”方のミイラはどうしたの?」




 そう質問したジョシュアの顔に笑みは無く、その冷血な顔はいかにもヴァンパイアらしい面持ちだ。




狼男

「それがさ……!相手のミイラをどついて走って逃げちゃったんだよ(笑)可愛いくない?絶対女の子でしょ!あんまり華奢な方では無かったけど、俺ちょっとドキっとしちゃった!」



死神

「発情期の犬かお前は(笑)」



ドラキュラ

「……それ、もしかしてあの奥の席に座ってる奴?」




 ジョシュアがそう言って指差した方向を見ると、先程見かけたミイラが魔女と相席をしていた。実際に女性と並べて見てみるとどうも体格が良すぎる。だがそのくりっとした瞳はとても男の顔とは想像しづらいものだ。




死神

「ほぉーら、言っただろ?やっぱりあいつはストレートだって。女と一緒に飲んでんじゃん。」




 ジョシュアに肩をぶつけ「やめとけ、やめとけ。」とリーパーが顔の前で小さく手を払った。「大きなお世話だ。」とそっぽを向いたジョシュアだったが、楽しそうに話しているクリスを見ると……やはりそれが普通の成り行きなのだろう。自分が彼へと抱く想いはきっとどこか間違っているのだと、そう自分に言って聞かせた。




狼男

「ぁあ!そうそう、あの……子??こうやって見ると、あんまり女子っぽく無いような……」



死神

「…………!!」




 ウェアの言葉を聞いて、リーパーは飲もうと持ち上げたジョッキをテーブルの上にガタンっと置いた。




死神

「おいウェア、お前あのミイラ男がさっき他の男とキスしてたって言うのかよ?」



狼男

「うん、してたよ。」



死神

「マジかよ、あいつゲイだったの……?」



狼男

「いや、拒否ってたから……違うんじゃない?」



死神

「おい、ウェア、お前ちょっと口説いて来いよ。」



狼男

「はぁ?!嫌だよ!」



ドラキュラ

「……俺が行く。」




 スっと立ち上がりグラスの中のワインを飲み干し、クリスが座る席へと向かう。




狼男

「え、あいつ何やってんの?」



死神

「気になってんだってよ、あのミイラ男のクリス君の事が。」



狼男

「ぇえ?ジョシュってゲイだったっけ……?いや、普通に女の子と付き合ってたよね?」



死神

「一目惚れしたんだとよ、男に。」




 長年の親友が今更になってゲイに目覚めた事が、今のウェアには少しショッキング過ぎて開いた口が塞がらない。




死神

「この勢いで、俺らも一発やってみっか!(笑)」



狼男

「お前が言うと笑えねぇんだよ!!」




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