星空に咲け〜ただいま任務遂行中〜

オレンジの金平糖

プロローグ

プロローグ

 蔦の絡んだ今にも崩れそうな家が、木々に隠れるようにして山奥にひっそりと建っていた。その家のガラスが外れた窓枠に、小さな鳥が着地した。灰色のその鳥は木枠の部分をコツコツと二回突く。毎回同じ場所を突くせいで、そこは人の指の半分ほど入るくらいにくぼんでいた。


「もしかしてキツツキの親戚なの?」


 この家に住む少女が窓へ近づきながら話しかけた。少女は鳥にその答えを求めたわけではなかったようだが、鳥は、なんのことやらとでもいうように器用に頭を傾げ、テンポよくさえずった。


「鳥も主人に似るのか……」


 少女はこの鳥の送り主の憎たらしい顔を思い浮かべて思わず顔を顰めた。鳥の足に結ばれた手紙を慣れた手つきで取り外せば、仕事終了とばかりに鳥は飛び去っていった。


『即刻煉瓦に』


 想像通りローザ緊急招集を知らせる内容だ。


 机の飾り棚に放ったままだった装飾具を手首につける。


 煉瓦造りの暖炉はもうすぐ新芽の季節となるのに雪の日と変わらず燃えていた。少女が向かうのはこの暖炉。一瞬の躊躇もなく暖炉の中へ頭から体を突っ込んだ。


 部屋に残ったのは少女の飲んでいたココアと、彼女の書いたメモ書きの山。それと幼い頃の少女が一人で微笑む写真。


 写真の右下の大きく煤けたその横に小さくサインがあった。



 ――アーヤ・レイア――



 それが少女の名前である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る