林田ガイコツと姫 その①

「人助けじゃん、それって」


田中は言った。


「昨日の’決めごと’の話もあって、俺も善行をしたくなったのよ」


「にしてもなんで?」


田中はさらに声を二段階ほど大きくして聞いてきた。まだ、完全に起き切っていない自分自身に喝を入れているのかもしれない。


「本人はダイジョブそうに振舞ってたんだけど……一回逃げられたし……何かに怯えてるような気がしたんだよな」


「なんだよそれ、まぁ迷子って不安だもんな」


「いや……どちらかと言うと、親に怒られるかも的な怯えだったような…………」



そんな話をしていると、ドタバタと息を切らしながら、笹本が駆け足でやってきた。


「どうしたんだよ? 笹本」


「林田! お前、昨日なんかしたのか?」


2人の視点が自分に集まる。


「え?」


「人助けだぜ」


田中は笹本にどこか誇らしげに言う。


「根本 勇姫ゆうきが林田を探してる見たいなんだよ」


「へ?」


まったく話の流れがわからない。


「なんで?」


「まぁ、厳密に言うと、制服を着たガイコツを探してるみたいなんだけど……それって120%林田だろ?」


「なんで俺……が………あっ」


「心あたりがあるのか?」


「なんかあんの?」


笹本と田中は再び、俺に注目する。


「昨日、迷子の子を家に帰す手伝いをしたんだけどさ」


「さっきの話だよな」


「それが人助けか」


「その子の名前、たしか、ねもと ゆうだいって言ってた」


「なるほど」


笹本の中でおおよその検討が付いたようだ。


「ん?」


田中は……まぁいい。



「昨日、林田が助けたってのは、根本 勇姫の小学生の弟の根本 勇大だよ」


「……っあ」


田中は驚きのあまり、呼吸を忘れていたようだ。

というか、俺も全身からするすると力が抜けていく。昨日の大叱責が脳裏をよぎるのだ。


「田中! 林田! ふたりとも大丈夫か? 顔から血の気が引いてるぞ」


笹本は本気で心配しているようだ。


「林田の顔面はもともと真っ青だよ」


田中は死にかけになりながらそんなことを言ってみせた。

あまりにも不意打ちだったため、笑みがこぼれる。


「ッククク……」


「…………なんか、大丈夫そうだな」


笹本は見るからに肩を落としていた。



「それにしても、なんで根本は俺に怒ってるんだ?」


感謝を伝えたい……とかならまだわかるんだけど。


「それが…………」


笹本の話をまとめると以下のようになる。

昨日、根本 勇姫は帰りがいつもより遅くなった弟の勇大に対して、なぜ遅れたのか理由を聞こうとした。しかし、勇大はかなり疲労がたまっていたのか(これは多分、俺が追いかけてしまったことも原因かもしれん)、家に無事帰れた安堵感も合わさって半分夢の中だったそうだ。そんな中で聞き出した言葉が、「制服、ガイコツ、かけっこ」だった。この三つのキーワードから根本 勇姫は、制服を着たガイコツとかけっこをして遊んでいたがために遅れてしまったのだと推理したようで……。


「あんたが林田ガイコツ?」


……え?


「は……はい」


振り向くと、そこには、腕を組み、仁王立ちでこちらを睨んでいる根本 勇姫がいた。

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