第7話 「勇者エリーシャvs追放者ジークルーン」


 そこに居たのは私の初めて仲間。

 私が恋をした人。

 私を否定した人。

 私が憎んだ人。

 私が愛した人。


 私が捨てた人。


 穏やかな表情はなく。

 彼の瞳は憎悪に染まっていた。

 それは私に向けられており、憎まれる理由しか見当たらなかった。


「……ジーク、なんでお前が!?」


 声を発した瞬間、彼の殺意を全身に浴びる。

 聖剣を握る手が震えた。

 怯え、動揺をしていた。

 それはまるで、かつて女の子だった頃の私のように。


「この程度、屈している場合じゃないよ勇者」


 ジークの剣が赤黒いオーラに包まれる。

 床を踏みしめ瞬きよりも速く、私の鼻の先まで彼は接近していた。

 攻撃を聖剣で防いでみせたが、剣が衝突した途端、黒い魔力が拡散した。

 目の前で私めがけての爆発が起きたのだ。

 あまりにも凄まじく、私は吹き飛ばされてしまった。


 仲間に受け止めてもらい、エマに治癒魔術をかけてもらう。

 その間、アレクと魔剣士ロイドが先陣を切った。


 アレクがまずジークの攻撃を盾で防ぐ。

 その硬直した隙を見計らいロイドが炎で包まれた剣をジークに振り下ろす。

 しかしロイドの剣が軽々と籠手で受け止められてしまう。


「なっ!」

「遅いよ」


 興味のない視線を彼らに向けながらジークは全身を帯びる黒い魔力を剣に集中させ爆発を引き起こした。

 二人が吹き飛ぶ。

 接近を得意とする他の仲間たちも駆けつけるが、ジークが手を振るっただけで発生した爆風に皆が巻き込まれる。


 今度は遠距離を得意とするエマや占星術師ジェシカが魔術で援護をするが、傷一つも付かない。

 鎧の埃をはらう程度である。

 先ほど戦った配下とは比べ物にならない実力を発揮するジークを私は、目を大きく見開きながら見つめた。


「どうして、どうしてなんだジーク!? 答えろ!」


 喉が焼けるほど叫ぶ。

 こんな声量を出さずとも普通に喋りかけても聞こえる空間だ。

 ショックのあまりで自分を抑制できていないのかもしれない。

 かつての仲間に対して、彼は刃を向けたのだ。


 ジークとは長い付き合いだからこそ、彼がこんなことをするような人物ではないことを知っていた。しかし思い出せ、彼を無我に扱った私たちを。

 あまりにも理不尽、無情にも彼を追放してしまったのだ。

 私のことを心配して、非力ながらも守ろうとしてくれたのに。

 私は彼の厚意を裏切ったのだ。


 だからこそ聞きたかった。

 ジークが私たちに刃を向ける理由を。

 そうすればいくらでも謝る、負の感情を爆発寸前までため込んだ彼を受け止めたい。


「別に、君のせいではないよ。だけど僕が立ち塞がる理由、君が一番分かっているはずだ……エリーシャ」


 鋭い眼光、低い声でジークは答えた。

 私に敵対心を持ちながらも、私のせいではないと言う。

 恐らくは嘘だろう、そんなはずが無いからだ。


「だったら何故、我々と敵対するんだ! 反逆者となれば、人類の手によってお前も魔族とともに滅ぼされるんだぞ!!」


 胸に手をあて、ジークに訴える。

 すると彼は呆れたように溜息を零し、再度私を睨みつけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る