『気☆ガァ―ル』

工藤千尋(一八九三~一九六二 仏)

第1話私の名前は『気☆ガァ―ル』!

「自分はかっこいい。イケてる」


 まあ人間なら誰しも自分をこう評価する。そして年を重ね。


「あれ?自分は思ってるよりもカッコよくないみたい。イケてないみたい、かも」


 となる。それでもまだ他人と比べる。


「あいつよりは俺の方がかっこいいだろう。だってあいつハゲてるし」


 街中でバランスの取れていないカップルらしき男女を見る。


(嘘だろ…。『パパ活』ってやつ?それとも『同伴』ってやつ?だってあんな綺麗で若い姉ちゃんがデブのおっさん、しかも親子ぐらいの年の差ってやつ?親子じゃねえの?でも親子は『腕組み』なんかしねえよな。くそ…)


 そんなことを考える。


 星野孝介。三十路を迎えたバツイチ。ちなみに自己紹介では必ず『こうすけって字はあの福留選手と同じなんです』と言う。


(俺って悪くないと思うんだけどね。何で女っけがないんだろう。そりゃあ収入もそんなにあるわけじゃないけど。養育費も月々払ってる。それでも世の中の『平均』で言えば悪いと思わんし。まあ単純に言って『出会い』がないってのが致命的なんだろうけど)


 孝介は一人街を歩いている時、大概こんなことばかり考えている。あながち思っていることは間違ってはいない。今は『婚活アプリ』なるものに『女性』までもがお金を払ってまで『出会い』を求めているという。


「出会いがない」


 もし仮にそういうアプリやサイトで出会ったとして。知人や友人、親兄弟に紹介する時、『実は彼女とは婚活アプリで出会いまして』と胸を張って言えるのだろうか?


 え?ナンパ?無理無理。


 街中で自分好みの異性を見つける。頭の中で思う。


(お、すげえかわいい。俺好み。超タイプ。あの子いいなあ。彼氏とかいんのかなあ?)


 そしてさりげなく左手薬指まで確認する。


(ち、結婚してんじゃねえか。相手はどんな野郎だ。俺の方が絶対いいよ)


 こういう考え方をする人間って実はほとんどじゃねえの?と孝介は思っている。それは正解であり、真理である。


 よく行きつけのコンビニエンスストアに新しい店員さんが。派遣だとかアルバイトだとかはどうでもいい。


(この子…、かわいいなあ…。俺もこの店には結構通ってるけど…。この子は俺のことどう思ってるんだろう…?)


 こういう考えもほぼ真理である。誰しもが持つし、思う感情である。


「自分の意識した相手が自分に対して『気がある』のかが分かればなあ…」


 それはもう暴論である。それが分かれば『一途な片思い』はこの世からなくなるし、『ごめんなさい』な大どんでん返しもなくなる。キャバ嬢は『夢』を与えられなくなるし、アイドルにお金を突っ込んでゲットした高額な『握手券』も虚しさしか残らない。


 そんなある日、孝介は『夢』を見た。もちろん寝ている間に。



「俺に気があるんだろ?」


「馬鹿じゃないの?自分で自分を高評価しすぎ。鏡見れば」


「そうかなあ。俺ってダメなのか…」


「だーかーらー。そうじゃなくてえー。『その気にさせる』のが恋愛じゃないの?」


「うーん。難しい…」


「そんなこと言ってるから奥さんと子供に逃げられるのよ」


「それは!」


「はいはい。言い訳はいいから。それよりさあ。欲しいものがあるのよねえ」


「うーん」


「ちょっとぉ!聞いてるの!?」


「あ、ああ。聞いてる聞いてる。欲しいものだよね。ってここはどこ?」


 そこで孝介は目を覚ます。


(夢かあ…。それにしてはリアルな夢だったな…。キャバ嬢にプレゼントを強請られるとは…。そんな店行ったことあったっけ?)


「随分と昨夜はお楽しみだったみたいですね。孝介♪」


「へ?」


 目の前には若くてかわいらしい女の子が。


(待て待て!?昨夜はお楽しみ!?酒飲み過ぎて記憶ない?いやいや、昨夜は酒なんか飲んでねえし。誰?)


「あのお…。ここは僕の家ですよね?」


「そうだよ。孝介」


「ですよねえ。え?僕はデリ的なものを呼んだとか?」


「なんだそれ?デリ的って何?」


「あのお…。あなたはどちら様でしょうか?」


「私の名前は『気☆ガァ―ル』!よろしくな!孝介」


 えーと。いろいろと頭の中で整理したいが。これって何かの『どっきり』的な?


『気があるエンジェル・気☆ガァ―ル』物語の始まりだわさー。

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