第35話 クイズ番組収録


「じゃあ俺は昼からクイズキングダムの収録に行ってくるから、昼は弁当作っておくけど家族は会場に入れるから気が向いたら来いよ、これ入場パスな」


 朝飯の洗い物をする前に俺はリビングのソファに座るヒメコの前のテーブルにオレンジ色のカードを置いた。


「歴史なんてもう終わった事勉強して何になるってのよ、過去を振り返るより未来を見なさいバカ兄貴」


 とか言いつつカードを取ってポケットに入れるところを見ると脈ありかもしれない、ただこいつの場合はただテレビ局に行けば芸能人に会えるかもしれないとかいうミーハーな理由だろうけどな。


「俺は過去あっての現在だと思うぞ」

「だったらたまには新聞読みなさいよ」

「いや、俺のパソコンには常に歴史の新発見情報が届くようになっているから大丈夫だぞ」

「歴史以外の事も知っておけって言ってんのよ」


 ヒメコ投手が投げた新聞が俺の額に直撃、新聞でも当たると結構痛いんだな。

 俺がよろめいて仰向けに倒れるとバサリと新聞が顔に被さる。


「物は投げるなっていつも言って……んっ?」


 その時、新聞のとある記事が俺の目に飛び込んできた。








 午後二時一〇分前、俺達歴研のメンバーは学園の制服に身を包み控え室で出番を待っていた。


 周りには他のチームの連中がギリギリまで勉強をしようと歴史の本と睨めっこをしている。


 選抜試験の時と同じように広い控え室にはイスとテーブルが用意されていて、そこにはナデシコ率いる生徒会メンバーがいたけれど、ナデシコは俺達を無視するように目を合わせなかった。


 マモリはそんなナデシコを、俺のほうをチラチラと見ながらだが心配そうな顔で見守り、代わりにイテキ先輩とタケルさんが、


「みみ、みなさん、今日はどうかよろしくお願いします」

「ごめんねみんな、ちょっとナデシコちゃん二日前から機嫌悪くってね」


 と挨拶をしてきた。

 それでもナデシコが俺達と比較的近い位置のイスに座ったのはある程度意識しているからかもしれない、と、俺が思っていると、どこからから嫌な声が聞こえてきた。


「おんやぁ、君達は歩御高校(あゆみこうこう)の人達じゃないかぁ」


 眼鏡をかけた四人の男子、その中でやや背の高い男子が眼鏡をクイっと上げてから腕を組みナデシコを見下ろしていた。


 あの制服は名前は忘れたけどたしか結構レベルの高い進学校の物だ。


 今年になって初めて平均偏差値が歩御高校の特進コースを上回ったとかでロリ校長がグチをこぼしていたのを覚えている。


 いかにもガリ勉まるだしの容姿をしたほとんど見分けのつかない四人の説明をしても無駄な労力なので今喋った男をガリリーダー、他の三人をガリA、ガリB、ガリCと呼称しよう。


「生徒会自らが参加とは、学校のPRに必死だねぇ、まあ我が学園に負けて来年からの入学希望者も減るだろうから仕方ないだろうけどね」


 ガリリーダーにガリAとガリBも続く。


「そんなこと言ったら可愛そうですよリーダー、図星なんだから」

「デクノ坊に日本人形にサムライ女に何その白い髪、あんた何歳?」

「でも美少女率高いですよね」


 ガリCがガリ三人に殴られた。

 そういえばこいつらの学校って男子校だっけ。


「とにかく、仮にも去年まではうちの学園に勝ってたんだから初戦敗退はやめてくれよ」

「まあ落ちぶれた君らじゃ難しいだろうけど」

「メンバー表見たけど三年生が一人もいないなんて大会ナメてるよね、今からでも三年生の歴史の範囲教えてあげようか?」

「そっちの髪の白い女の子のメアド教えてください」


 ガリCはガリ三人のボディブロウを喰らって意識を失った。

 イテキ先輩は怯えてタケルさんの後ろに隠れてしまう。


「ふん、僕らが怖くて声も出ないかい? じゃあ本番で僕達の力を見せてあげるよ」

「早押しの素振り練習の成果が楽しみだ」

「一日二〇〇回は押したかな」

「……せ……制服のボタンを上二つはずして……くだ……(ガク)」


 ガリC、君とはとても仲良くなれそうな気がするよ。

 でも誰も言い返さないなんて珍しい事もあるもんだ、それとも俺以外にはやっぱ怒らないのかな。


「今の雑魚、お嬢様にはどのように見えますか?」

「見えるわけがないわ、だって眼中に無いんだもの」

「そうだね、おにいさん達の目に映るのは一チームのみ、今は他のモブチーム達に構う気にはなれないな」

「今の人達キモチ悪いです。私嫌いです」

「はは、心配しなくてもイテキちゃんはおにいさんが、しーっかり守ってあげるよ、ねえ、そうだろう?」


 恥ずかしがるイテキ先輩を抱きよせながら、タケルさんの視線は俺達に据えられ、その目の奥には普段の陽気さからは想像も出来ないほど熱い闘志を感じた。


「では参加者の皆様は会場にお集まりください」


 係りの人の呼びかけで控室の全員が動く、こうして俺達の戦いは始まった。



『『クイズ、キングダッーム!!』』

『それでは今週も始まりましたクイズキングダム、本日は歴史部門アンダー二〇!』

『全国から歴史好きの若者が集まっちゃってますよー』


 いつものイントロ、そして男女二人の司会者がお決まりの台詞を口にしながら番組は始まった。


 この二人は番組の名物司会者で真面目な男司会者のタクミとお調子者で美少女好きの女司会者アサミ、主にタクミがツッコミでアサミがボケである。


 押しボタンと小さなモニターの置かれた解答席に座りながら他のチームを見てみる。


 すぐ隣には同じ出身校のナデシコ達、そしてその隣にはさきほどのガリチームがいた。


 他は見覚えが無ければ見栄えもしない連中ばかりだけれど一チームだけ全員女の子の珍しいチームがいた。


 セーラー服の似合う少女達は全員同じ顔でそれぞれの髪型が右サイドテール、左サイドテール、ポニーテール、ツインテールとなっている。


 たった今彼女達のチームの説明があったがどうやら一卵性の四つ子らしい、そうだな、四つ子の妹とかいうのもおもしろそうだな。


 さてと客席には、おっ、ヒメコ発見、結局来てるじゃないか、よしよし、たまにはお兄ちゃんのかっこいいところを見せてやるか。


 番組の前フリと出場者の出身校などの簡単な説明が終わりアサミがルールの説明をし始めた。


『ファーストステージのルールは簡単、全三二チームによる早押し問題、正解したチームから順にセカンドステージに進出して合計一六チームがセカンドステージに上がれます。

ただし問題はあちらの巨大モニター、そして参加者の皆さんのテーブルに備え付けられているモニターに表示されますので問題を読む速さも問われます。

答えを間違うと次の問題を答えることができないので気をつけてくださいね』


『ではクイズスタート!』


 ジャジャン!

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