第10話 みんなが集まって来る!


「どしたのレオン?」

「何の騒ぎ?」


 俺が悲鳴をあげたせいか、鍵の開いたドアから幼馴染のジュリアとアリッサが顔を出す。


 ふたりが入室してくると、俺は危険を察知して強硬手段に出る。


 腕力で力任せに箱をもぎとると、窓から一目散に飛び出した。


 箱を抱えたまま中庭に着地。


 俺の横に、エル、ジュリア、アリッサも着地した。


 みなさんよく鍛えてますね。


 エルは内気で家庭的で控えめな娘だが、一流のハルバード使いである。


 ジュリアはおっとりしたぽわぽわお姉さんだが、一流の斬馬剣使いである。


 アリッサは細身でクールな知的美人だが、あらゆる地形に対応する一流の弓兵である。


 三人とも、階段を降りるぐらいの気軽さで降りてきた。


「おや隊長殿、どうしたでござるか?」

「上からくるとは斬新じゃない?」

「私を驚かすとはやりますね」


 そして中庭には、我が分隊の残る三人の女子、トモエ、エリス、ルーチェの三人が瓶詰ジュースを飲んでいた。もう行水は終わったらしい。


 我が分隊最年少の少女兵、エリスが好奇心に目を光らせる。


「ねねね隊長。その箱隊長のだったの? なになに~?」

「ぐっ」


 まずい、どんどんバレている。


 とにかくここも危険だ。早く移動せねば!


 俺は中庭から脱出しようと駆けだした、駆けだして、曲がり角でスタンの巨体と衝突した。どうやら、ジャン、エリック、スタンの男子三人組が中庭に来るところだったらしい。


 仰向けに倒れた俺は箱を投げ出してしまい、箱は中庭の中央、つまり、みんなからよく見える位置で中身をぶちまけた。


 果たして、というか、当然ながら箱からぶちまけられたのはエロ本などではなく、伊藤銀貨三六〇枚、二等金貨三六枚分(三六〇万円)のダマスカス製レプリカソード・タイプ・エクスカリバーであった。


「おぐぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 地に伏したまま俺が手を伸ばす。


 部下九人の目が、レプリカソードに集まった。


 我が分隊のプライド高き魔法使い、ルーチェが、


「これ、勇者の聖剣エクスカリバーのレプリカソードじゃないですか。隊長、これわざわざ買ったんですか?」


 東方から渡ってきた女武士、トモエが俺をかばう、


「いや、隊長殿が買ったとは限らないでござろう。友人の荷物を預かっているのでは?」

「あ、領収書。名前隊長のになっている」


 トモエの気づかいを、少女兵のエリスが潰した。お前は許さん。


 清純幼馴染のエルが胸をなでおろす。


「良かった。いやらしい本じゃなかったんだ」


 おっとり幼馴染のジュリアが、エルの頭をなでる。


「あたりまえじゃないエル。レオンはエル以外の裸に興味なんてないんだよ」


 そのフォローは最悪だがいまは許そう。


 ドS幼馴染、アリッサが、


「そうよエル。レオンは毎晩あなたをオカズにしているのよ」

「はうぅ……」


 アリッサ。てめぇは許さねぇ。


 ゲスメンのエリックが、


「それで隊長。なんでレプリカソードなんて買ったのさ?」


 隊長のウィークポイントに触れてんじゃねぇぞボケェ!


 ぐっ、バレたら仕方ない。ここは正直に俺が買ったと言おう。


 俺がそう決断したとき、単純馬鹿のジャンが、


「そんな! 隊長は『達人は道具を選ばない』って言っていたじゃないですか!? それともまさかアーサーに憧れて!?」


 はうぅッッッ!?


 いや、まだだ。ジャンの期待は裏切ってしまうが正直に言えばきっとわかってくれる!


 俺がそう決断したとき、筋肉馬鹿のスタンが、


「失礼なことを言うなジャン! 隊長が己の言葉を違えるようなゲス野郎だとでも思ったか! 隊長はダマスカス製ソードに頼るような根性ナシではない! ましてアーサーに憧れるミーハー者でも断じてない!」


 だからチームワークよすぎだろお前ら!


 ザッとみんなの視線が、九人の視線が俺に集まる。


 どどどどどどどど、どうしませう。


 この状況で俺が合法的にアーサーの剣を買う理由なんて思いつかねぇよ。


 俺の答えを待つなか、アリッサだけは視線で語っていた。


『貸しひとつで、助けてあげるわよ』


 嫌だぁあああああああああああ! アリッサに貸しなんて作るなんて、自ら地獄の釜のフタを開けるようなものだ。


 背中に嫌な汗を流し、心臓の鼓動が加速して、指先がしびれて、口のなかが胃液の味でいっぱいになる。


 白目を剥きそうになりながら、俺は、精一杯の答えを絞り出す。


「ジャ……ジャンにあげようと思って……な……」


 みんなが首を傾げると、俺は勢いよく立ちあがる。

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