第18話 ボス戦

「アアアァアアアアッッ!」

『■■■■■■――』

『■■■■――■■』

『――■■■■■■』


 まるで人形のように軽々とロイに解体され続けるが、機甲兵の数は一向に減る気配が無い、おそらくはこの研究所中の機体が集まってきているのだろう。


 いくら解体しても解体してもリアの元に近づかない苛立ちも限界にきたようだ。

 ロイは両手のチェーンソーを腰に収める。


「テメーラなあ、いい加減にしやがれっつんだ!」


 空いた両手に機甲兵を掴み、ロイは解体していない敵を直接別の機甲兵にぶつけていった。


 巨神もそうだが、機械の兵隊とは総じて骨組み剥き出してパイプが飛び出した格好をしているため、お互いの体がひっかかり、はずれるまで動きの鈍い兵をカイがドリルで貫き、一石二鳥の戦法に変わると、これが以外に効率が良かったのだが、しばらくすると部屋全体を巨大な振動が包み込んだ。


「おや? 何か天井が……」


 銃の弾には限りがあるため、機甲兵を直接持ち上げ武器として振り回していたライナが仰ぎ見ると、天井を支えていた極太の骨組み達が天井を離れ、だがソレは落下することなく振るわれた。


 それに合わせてまだ解体されていない機甲兵達は一斉に逃亡した。


 天井の骨組み達がその全貌を顕(あらわ)にし、これから何が起こるかをライナとカイは冷静に観察、分析しようとするが、ロイは無視してカプセルへと走り出す。


「よく分からねえけどチャンスだ、リア、どれに入っているんだ?」

「ここ、お兄ちゃんこっち」


 カプセル群に駆け寄るとリアの声とフタを叩く音のするカプセルの前に立ち、ロイは力任せにフタをこじ開けた。


「リア大丈夫か!」

「お兄ちゃーん」


 リアは中から飛び出すとロイに飛びついて泣きじゃくる。


 そんな妹をなだめながらロイも天井に目を向けると、そこにはとても歓迎したくない光景が広がっていた。


 大量の骨組みの正体はこの部屋を支える為の鉄骨などではなく、巨大な機械の腕、先端部には巨大な四枚の刃が指の代わりを成していた。


 太さこそ巨神のモノと同じだが、その長さたるや巨神の三倍はある。


 そんな物が天井から八本も生えているのだ。


 いくら大切な最新の発電システムとはいえ、この部屋でしか使えないというのに、随分と無駄な物を作ったなと思いながら、ロイたちは得物を構え、リアは足元近くに転がっていた機甲兵の右半身の足首を掴む。


『■■■■■■――■■■――■■■■■』


 かつてない鉄の咆哮にリアは驚嘆して思わずロイの後ろに隠れた。


 八本の巨腕がうねり、四人に狙いを定める。


 ロイとカイは前に進み出ていつものハンマーを持たないリアを守るような形になる。


 さらにライナが後ろで二丁のショットガンを構えるが、おそらくこの陣形は意味をなさないだろう。


「カイ、わかってるな?」

「当たり前だ、リア、お前は無理をするな」

「大丈夫、いざとなったらライライに守ってもらうから、二人は安心して」

「いやはや、こんな一介のヘボ大佐に期待されても困るねー」


 刹那、八本の鉄腕が一斉に迫る。


 四人はそれぞれ別方向に跳躍しながら腕に攻撃した。


 ロイ達は四人、腕の数は八本、一人二本の計算だが、いつも使っているハンマーの無いリアに二本は無理だろう、ロイは実質三対八のつもりで戦闘を開始した。


「しっかし、こんなタイプ見たことねえぞ」

「特殊型の巨神は人型や獣型と違ってやりにくくて敵わないな」


 言いながらロイとカイは部屋中を飛び回りながら確実に巨神の腕を確実に痛めつけていくが、ペースがあまりに遅かった。


 人間サイズの機甲兵ならライナの銃で楽に倒せたが、この相手には少しばかり口径と火薬の量が足りない、リアは論外だ。


 同時に、それも高速で動く八本の腕は四機の巨神を同時に相手にしているように思えてしょうがない、そのうえ、普段の戦場である外と違い、四方全てを壁に囲まれた室内では地形の問題で外ほど自由に跳び回れない。


「これは、ちょーっとばかり旗色が悪いねー」


 ショットガンを乱射しながら巨神を捌くライナは、だが言葉とは裏腹に表情に焦りは見えなかった。


 あらゆる方向から攻撃してくる長い巨腕全ての動きに気を配るのは莫大な集中力が必要となる。


 全ての攻撃をかわしながら、動き続けている腕を攻撃するのはそう容易いことではない、


 ロイ達は人間、戦えば戦うほどに精神力を削り、疲れが見えるが機械である敵にはソレが無い、長期戦に持ち込むのが得策ではないのはロイとてわかっている。


 腕の根元を攻撃すれば一番なのだが、さすがに敵もそう易々と付け根に近寄らせてはくれない。


「しゃーねーなあ」


 舌打ちをしてロイがあえて床に着地して腰を据える。


 当然に巨神の腕は頑強な鉄の爪を突き出し突撃してくる。


 それをロイは闘牛のマタドールよろしく刹那の見切りで避け、自分の横を通り過ぎていく腕に刃を突き立て続けた。


 別の腕が接近すると今度はかわすこともせずに自身の体にも回転を加えて渾身の一撃を見舞った。


 たまらずロイは後方に吹き飛ぶが綺麗に着地し、逆に巨神の腕のほうは手の部分が深く切断され、親指と言うべき指を除いた三枚の刃が根元から抉り取られている。


 さらにロイとの接触で一瞬動きが止ったのを見計らい、間髪いれずカイが一番近くの間接に飛び掛り槍の先端に取り付けられたドリルを叩き込む。


 けたたましい金切り声と火花をバラ撒きながらカイのドリルは巨神の腕を深く傷つけ、


 たまらず腕が襲い掛かるが、カイの攻撃する間接から先がベキリと音を立てて腕の先はカイに到達する前に転落した。


「よし、まず一本!」

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