第13話 ダンジョン

 しばらくして、遠目ながら建物の陰がちらほら見えてきて、やがては町が見える。


 周囲を囲っていた朽ち掛けの金網を艦で突き破り進んで町中に入ると、家などの建物はちゃんと原型と留めていて廃墟というわけではなかった。


「妙だね……」


 リアの疑問にロイは「何がだ?」と小首を傾げる。


「多少の破損はあっても倒壊している家が無いじゃん、巨神がこれだけの人工物をまだ見つけていないとは思えないし、窓やドアが開けっ放しって事は人はいないだろうし、この辺が巨神の出ないポイントなら町を捨てて逃げる必要はないでしょ」


「確かに……」


 リアの指摘にはロイも黙り込む、巨神は人工の建物や人間は片っ端から破壊する。


 小屋程度なら破壊対象に入らないかもしれないが、町一つを巨神がスルー筈が無いし、仮に巨神が出ない土地なら人がいないのがおかしい。


「この町と連絡は一切取れていないから、まあ、無人だろうね」


 ライナが言い終えると、前方に巨大な門のついた建物が見えてくる。


 とは言っても門は開いており、その広さはロイ達の艦でも余裕で通れる。


 当然、進路をその建物へ向けたまま直進、不思議と町中では先ほどの機甲兵は襲ってこなかったので、すんなりとたどり着くことができた。


 門を抜けて外壁の中へと入ると一棟の建物があった。


 近づいてみると、建物は平屋だがそれなりの大きさがあり、何かの研究所のように見える。


 白い塗装の剥げ掛けた壁もそうだが、先ほどの無人と思われる町のことも考慮し、使われている様子は見受けられない。


「いやあ、これは絶対何かあるねー、中に入って調べれば絶対に失踪事件もさっきの機甲兵のこともわかるねー」

「その自信はどこからくるんだよ」


 ツッコむロイに一瞬で向き直りライナは自分の頭を二、三度叩いた。


「ふっ、オジサンの次に誰が離婚するかも解るカンをバカにしちゃあいけないよ」


「離婚て、嫌な物予言するなよ」とロイが言おうとするとそれを押しつぶすようにカイが叫ぶ。


「なっ、大佐殿にはそのような能力が!? やはり大佐殿はただものではありませんね」


 思い切り騙される高潔な騎士様との精神的な距離を感じるロイ、そして段々頭の上の者が鬱陶しくなってくる。


「リア、いつまでそうやってるんだ、お前はお留守番」


 案の定、艦を停めて運転席から離れるとリアはすぐさまロイに飛びついて「お兄ちゃんがいるからいいもん」とか「いい加減覚悟を決めろ」とか叫びながら頭にタコのように絡みついたまま離れようとしない。


「えー、お留守番なんてやだー」

「つったって、さっきの、機甲兵に艦破壊されたらどうするんだよ?」

「むぅ、それはそうだけど」


「いや、大丈夫だと思うよ、あれから一度も機甲兵は襲ってこないし、多分このエリアの端の方に配置されていて中心部には配備されていないか、でなければオジサン達には勝てないと悟って警戒しているか、どっちにしろ失踪事件でも被害者達が乗っていた乗り物が無事なケースは多いし、それを踏まえて犯人の狙いは人間そのものと考えるのが正しいんじゃないかなあ」


「でも室内じゃリアのハンマーは使いにくいだろ?」

「じゃあロイ君が守ってあげればいいじゃないか」


 饒舌に語るライナに対する必死の反論も潰され、ロイは渋々ながら了解すると、いつもの大型チェーンソーではなく、室内用の中型チェーンソーを二つ手に取り、左右の腰のベルトに引っ掛け左手にだけガントレットをはめる。


 その横でカイも全身を覆う鎧を着ていく。


 金属制のブーツ、腰部、胸部、肩を覆うプロテクターに続きガントレットをはめると最後に口元のみが見えるヘルメットをかぶり、回転式の槍を手に取った。


「そいじゃ、いくとするか」


 露出の多い少女を肩車していなければ今のロイはさぞかし頼もしく見えたことだろう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る