第7話 信仰

 教会の中には、ラーバ神に守ってもらおうと多くの人々が詰め掛けていた。


 ラーバ教に心酔している人々は誰もが安心しきり、楽しげに談笑をしながら神の御前で戦いが終わるのをただ待っている。


 神がついているのだから勝って当然、どんなにロイ達が死力を尽くそうと、この村の人間達はラーバ神を讃え、ロイ達はせいぜいそのオマケ程度にしか感謝されないだろう。


 そして負ければラーバ神を信じなかった罰当たり者の最後として処理されるだろう。


 そんな空間の中で、ただ一人、儚げな表情でうつむき、イスに座っていたメイリーの横に、あのノーデル教主が座った。


「教主様……」


 見上げる少女に笑いかけ、若い僧は口を開いた。


「何か悩みごとかね? 私でよければ話してくれないかな?」


 ノーデルの優しい声に、だがメイリーはまたうつむいた。


「わたしは、わからないんです……昨日、あのお姉さんの言っていたことが……あのお姉さんのお友達はどうして死んでしまったのか……」


 メイリーの問いにノーデルは押し黙り、何とか答えようとする。


「メイリー、それは――」


 ノーデルの言葉を引き裂きけたたましい瓦解音がしたのはその時だった。


 右へ顔を向けると教会の壁をブチ破り、体を半分突っ込ませた巨神がこちらを睨み、そして足の一本を振るった。


 一瞬の出来事に全員の思考が止まり、そして消滅した。


 今の一振りで教会の中にいた人全てが薙ぎ殺され、総身をバラバラにして教会の中を一瞬で血肉の海に変えた。


 メイリーを庇うように抱き抱えたノーデルも壁に叩きつけられ、血を吐いた。


 唯一無傷で済んだメイリーは苦しむノーデルを運ぼうとするが、少女の細腕ではどうにもならない、未だ動く人間の姿に巨神は再び前足を掲げ、一気に振り下ろす。


「ラーバ神さまぁあああああ!」


 ノーデルの上に覆い被さり泣き叫ぶと、耳が金属音を捉えた。


 無意識に閉じた瞼をゆっくりと開くと、目の前の光景を瞠目して見る。


「………………」

「大丈夫か? メイリー……」


 海原の青(オーシャンブルー)の長髪に切れ長の瞳を持った絶世の美女、カイ・シュナックがそこにいた。


 昨日とは違い、首から下を強固な鎧で固めたスタイルで槍を両手で支え、巨神の腕部をその身で受け止めるカイは周囲を見渡して毒づいた。


「ノーデルとやら、これが貴様の言う救いか? さんざん祈らせておいて残酷な死を与えるとはとんだ神様もいたものだな」

『―――■■■■』


 巨神のパイプから煙が噴出し、馬力が高まった。


 たまらず腕がわずかに下がるカイに、ノーデルは狼狽しきり、何も返せずにいる。


「聞け! メイリー!」


 突然の喝にハッとして、メイリーはカイの声に集中する。


「これがお前の信じてきたモノの結果だ!


 神などいない!

 いてもソレは人を救う存在ではない!

 神に人が生めるか?

 神に傷が治せるか!?

 神に人が守れるかッ!?

 断じて違う、人を生むのは母だ、傷を治すのは医者だ!

 そして人を、自分を守ってくれるのは仲間達だッ!」


『■■■■■■―――■■』


 巨神から数種類のギアの回転音がした途端にリアの腰が落ち、片膝をつく。

その姿にメイリーは瞳孔を開き切り、その目に焼き付けながら涙を流した。


「神の加護で勝ったとか、信じる気持ちが足りなかったから負けたとか、それはその人の積み重ねてきた努力を踏みにじる言葉に他ならない!

 人を救うのは人だ、決していもしない偶像などではないのだ!

 神に頼らなくても…………」


 漲(みなぎ)る闘志を充溢させ、カイは叫ぶ。


「人は立てる!」


 カイの膝が浮き、徐々に巨神を押し返す。


「人は神に頼らなくとも自分達の力だけで前へ進める……何故ならば……人の力は神を超えるからだッ!!」

『■■■■!!』


 全身の力を滾(たぎ)らせて魂の咆哮を張り上げるカイに巨神の腕部は弾かれ、間接がズレたのか動きが鈍い、そうこうしているうちにカイは一瞬で距離を詰め、裂帛(れっぱく)の気合と踏み込みを合わせた鋭い突きを放つ。


「ハァアアアッ!」


 回避行動として巨神は下がったが間に合わず、カイの一撃はボディを貫き内部を破壊した。


 そのまま巨神が後ろへと押されて外へと転がり、戦場が大通りへ移るとカイは刃のような凄味を帯びた眼光で巨神を睨みつけて柳眉を立てた。


「さあ、かかってこい鉄クズ、その生き汚い魂を私のドリルで貫いてくれる!」

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