第11話 粛清


「麗華?」


 控え室のドアを空けて入室してきた人物を見て、雅彦が言った。

 戦いが終わり、抜き身の刀のような鋭い気は無いが、雅彦の表情からは落胆の色が見えた。


「その……残念だったね、お父さんの居場所、わからなかったんでしょ?」

「まあな、でも……俺さえこの世界にい続ければ親父も戦士である以上はいつか会えるはずだ」


 思ったよりも前向きな姿勢に感心しつつ、麗華も雅彦が座る長イスに座って、雅彦と並んだ。


「……」


 すぐ隣に座るだけで、何も言わない麗華に、雅彦が先に声をかける。


「殺し合いは嫌じゃなかったのか?」

「……」

「なんで見に来たんだ?」


 二段構えの質問に、麗華は静かに答える。


「あんたの事もっと知りたかったから」

「なんでだ?」


 聞き直されて、麗華は明るい顔で覗き込んできた。


「だってさ、どんなに文句言ったって、あたしに護衛が必要なのも、あんたがその護衛やっているのも事実だし、お父さんが仕組んだ事だけど、あたしらクラスメイトで部屋も隣同士だし。

だいいちあたしを守ってくれてる奴とぎくしゃくしたカンケーなんて余計息苦しいじゃないの、あたしは楽しい学園生活を送りたいの、だから……」


 麗華の顔に、自然と笑みが浮かんだ。


「仲良くしましょ」


 嘆息を漏らして、雅彦は差し出された手を軽く握る。


「変わってるな」

「よく言われる」


 お互いに笑みをかわす二人。


 その様子をドアの隙間から神宮寺和正は凝視して怪しい笑みを作る。


「ふっふっふっ〈お父さん僕に娘さんをくださいイベント〉発動に備えて台本を作らないとな」


 背後で、麗華の元専属執事の新谷(しんたに)昇(のぼる)が二人に同情していた。





 夜、それも深夜の公園で、バーコード頭の中年男性が数人のチンピラに暴行を受けていた。

 殴られ、蹴られ、離れた場所では鞄を物色されている。


「おーい、こっちにサイフ入ってねえぞ」

「わかった」


 そんなやりとりをしている。


 チンピラ達は今度は中年男性のポケットを漁る。


 中年男性に抵抗する力など欠片も残っていない。


 そこに、パンパン、と手を鳴らす音が聞こえた。


「はいはい、そこでストップな」


 同じ方向を見て、チンピラたちは眉根を寄せた。


 そこにいたのは若い男だった。


 中肉中背、耳にはイヤホンをつけて短パンにサンダル、手には指の部分が無いタイプの手袋をしている。


 半袖のパーカーから見える腕を見る限り、とてもではないが強そうには見えない。


「悪いけど親父狩りは犯罪だよ」


 メガネをくいっと上げて、青年は不敵に笑った。


「なんだてめ?」

「正義の味方ぶってんじゃねえぞ!」


 チンピラの一人が殴りかかる。


 青年の体が一瞬でチンピラの目の前に移動した。


「!?」


 驚いて体が固まるのと、青年の爪先がチンピラの首筋に触れるのはほぼ同時だった。


 チンピラの体が痙攣。


 二秒後には地面にキスをしていた。


 仲間の不良達は怯えつつ、青年を必死に睨みつけて虚勢を張る。


「てめえ今何しやがった!?」

「スタンガン……は持ってねえみたいだな……」

「くっそ、ナメやがって……」


 恐怖心に狩られたチンピラ達を見て、青年は両手を胸の高さまで上げて、一言分口を動かした。


「スタンガンなら持ってるよ」


 刹那、青年の手の、足の、計二〇本の爪先全てがスパーク。


 虚勢を張っていたチンピラたちの目が見開かれて、青年は一瞬で駆けた。


 流れるように、一人一撃ずつでチンピラ達をノックアウトする。


 手刀や蹴りがヒットすると同時に致死量の電流を叩き込まれて、一人の例外も無くその場に倒れ伏して心臓を停止させた。


 一人残らず死んだ事を確認。


 青年は気絶している中年男性に忠告した。


「夜は物騒だから気をつけな」


 そう言って、青年は夜の中に溶け込んだ。

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