第3話 殺し合い


 驚く麗華とは違い、あくまで冷静な声質を和正は崩さない。


「考えてもみろ、確かに武は本来、弱い者が強い物から身を守ったり争いを止めるために作られた。

しかしそれも敵を殺すためのものには変わらない、それが今の武はどうだ。

廃刀令や決闘罪の制定で戦士達は武器と戦いを奪われ僅かに残る武もあらゆるルールにしばられスポーツ化してしまっている!!」


 和正の声は徐徐に熱をおび、力がこもり、両手は拳を作る。


「そう、今の武は腐っている!

 あんなものは武ではない!!

 あれをやる者は武術家ではない、ただのスポーツマンだ!!」


 和正は拳をほどくと普段の冷静な声に戻る。


「そう、ここは世界で唯一残った理想郷、火薬、毒、ガスなどの道具の使用以外を全て認めた最強の闘技場。

よって、剣だろうが槍だろうが使用は自由、そして噛み付こうが目玉をえぐろうが自由、無論……」


 麗華の額から汗が流れ落ちる。


「殺すのも自由だ」


 麗華が絶句して、和正は視線を試合に戻した。


「試合はどちらかが戦闘不能になるか負けを認めた時に終る、解るか?

 ここは戦士が存在できる唯一の世界なんだ」


「都合いい事言って、じゃあ何で掛け試合なのよ!?」

「それは仕方ないだろ、最初は無かったが観客たちが勝手に賭け初めてな、なにせここにいるのは秘密を守れる特別な客ばかり、数千万単位で皆賭けるからそれが絡んだトラブルが多いのでこちらで取り仕切ることになったまでだ」


「そ、そんなの言い分けじゃない!」

「そんなこと言っているといい所を見逃すぞ」


 麗華は視線を雅彦に戻した。


「どうせ消化試合だ、さっさと済ませてやる」

「ほざけ!」


 年下の雅彦に軽く言われて川瀬は槍を振るった。


「はっ!」


 雅彦はその場で高速回転した。

 遠心力で川瀬の槍を弾く。

 そのまま川瀬の胸を刀で一線。

 川瀬の胸元から血が噴出しその場に倒れる。


「!?」


 麗華は両手を口に当て、言葉を失った。


「安心しろ、ここには世界最高レベルの医療設備と医者が揃っている、死人はめったに出ない」

「そ、そういう問題じゃあ」

「雅彦!」


 突然、闘技場に男の声が響き渡る。


 観客席から一つの影が飛び出し、それは雅彦の前に立ちはだかる。


「なんだお前か、城谷(しろたに)、俺と戦いたいのか?」



 相手の正体は城谷(しろたに)航時(こうじ)、一八〇センチ越えの高い背で体格は雅彦よりも良い。


 黒いシャツの上にダークグリーンのジャケットを着て、ズボンはグレー、足には黒いブーツを履いている。


 年は雅彦とそう変わらないだろうが、金髪に染めた髪から、雅彦よりも性格は軽そうである。


「さすがに話が早いな、でもお前、挑戦は全て断るんだよな」


 言われて、雅彦は両手の刀を下に垂らして戦闘体制を完全に解く。


「当然だ、Bランク以下の奴と戦っても強くはなれないからな、こいつとの戦いもやる気じゃなかった、俺と同じAランクで社長の命令だったから――」

「お前の親父」


 航時のその一言に雅彦は口を止めた。


「居場所を知っていたら、どうして欲しい?」

「知っているのか?」


 聞き返されて航時は口元を緩めた。


「さあね、それよりも俺の挑戦は受けるのか?」


 雅彦が、

「当然だ」

 と言って、航時は和正のほうを向く。


「おい社長、Aランクの雅彦倒せば、オレはAランクに昇進だよな?」


 その言葉に和正はにやりと笑う。


「そのとおりだ、この闘技場のルール上、自分よりも上のランクの戦士を倒せば勝者は敗者と同じランクになる。

では雅彦、対戦カードを組むが良いか?」


「必要無い、今すぐここで倒す!」


 両手に刀を構えて、闘気を現す。

 その様子に航時は一歩引いた。


「おいおい、そんな熱くなるなよ、客だってまだ金を賭けてねえんだ、それにさっきの試合のせいで地面が血で汚れているしな、じゃあ試合の日が決まったら教えてくれ」


 そう言って航時は闘技場を出る。

 その背中が見えなくなるまで、雅彦は航時を睨みつけていた。



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