宝物はこの手の中に!!ーー大地の守護者アヌビウスーー

春夏秋冬

プロローグ





深い岩山の中に、金属で何かを叩く音が響いている。一定のリズムで響くそれはやがて何かが崩れるような音へと変わっていく。

 

 

「・・・お!よっしゃ、窯に当たった!大物だ・・・」

 

音は止むと同時に今度は声が響く。

その正体は一人の男だ。

若さを感じる顔つきに、黒髪に優しさを含んだ茶色の瞳。山登り様の頑丈なブーツ、耐久力のあるジーンズを履き、上着には半袖の上から防風用のジャケットを羽織っている。頭にはサファリハット、防塵ゴーグルをかけており、それだけ見ればただの登山家と見えなくもない。だがその右手に持ったピッケルが、男がただ山登りに来ただけの男ではないということを物語っていた。



男は滝のそばのペグマタイトの脈にピッケルを叩きつけ、やがて空洞を掘り当てその中の成果に手を伸ばす。

太陽にさらされたそれは辺りに光を反射し輝きを放つ。

その正体は子供の腕くらいはあろうかという煙水晶スモーキークォーツだ。

 

「やっぱお宝探すならここが一番だよな~」

 

男は満足そうに呟き石を川の水で洗い綿の敷き詰めたタッパーに詰める。

 

「いいもん取れたし今日はもう満足だな・・・そろそろ帰るとしますか」

 

 

鞄の中に皮で洗った道具類を詰めて背中に背負い込む。男は鞄を背負うと崖の方に顔を向け一回お辞儀をして下山していった。

 

 

季節は夏。

降り注ぐ太陽の光が木々の隙間から地面を照らしマダラ模様に染める。辺りには男の歩く音の他、川のせせらぎ、風になびく木々の音、セミの声が響く。清浄な空気の中気分がいいのか男は鼻歌を歌いながら岸壁付近の道を歩く。





男、秋江 陸(あきえ りく)は普通の高校生であり、トレジャーハンターだ。

と言っても集めてるのは御大層なお宝ではない。水晶などの綺麗な石や面白い形状をした鉱物、昔のレトロな古道具などであくまで趣味の中に収まっている。

 

幼い頃から宝物を集めるのが好きだった。

というのも自分の暮らしてきた日之影町は有名な鉱物の産地で、ごく稀に六角形の水晶がそのままの形で落ちてることがあったからだ。

初めてそれを見つけたときは思わずドキドキしながら両親に宝石を見つけたと語ったものだ。

 

 

「いや~、やっぱ石割り用のピッケルはトンカチとは違うな~。作業効率が段違いだ。」

 

そんな彼は今日せっかくの休日を利用して鉱物採取に来ていた。普段面倒な学業から心と体を休ませるべくと訪れた。そんな中見つけた煙水晶が見事なものであったためか帰路についてる最中だった。

帰る途中我慢しきれなくなり採取した石を手に持って眺めながらそう呟く。砂も少し含んで結晶化した煙水晶は光を吸収して幻想的な輝きを見せる。

嬉しくなり思わず服の袖で面を磨いてゆく。


自分ほどの年頃の男にしては渋すぎる趣味だという自覚はある。

同級生の流行りというとゲームやファッション、校内での恋愛模様などもあるだろう。しかし三子の魂100までというべきか、自分はなにかを集めるという行いに楽しみを抱いてしまっていた。


少し歪ながらも柔らかい光を通す並べられた薬瓶


さまざまな環境によって異なる特性を醸し出す鉱物たち


季節のきのみ、


海の流木、


使い古された顕微鏡やはかり、


さまざまな動物の骨など・・・




部屋の中はそれらがエキゾチックな雰囲気を纏わせながら綺麗に並べられている。

当然集めすぎて親に怒られることもあるが、そんな時はインターネットのフリマアプリで売ってしまう事で整頓を行なっている。



「・・・とはいえなぁ・・・」



そんな彼は一つ悩みを抱えている。





「話の合う友達、欲しいな~・・・」



その悩みとは高校生活を初めて半年、彼には未だ友達と呼べるほどの関係を築けないでいた。

16歳、それは友達と遊んだり恋愛を楽しんだりしてみたい思春期である。決して一人がいいというわけではない。しかし彼の趣味はなかなか人を選ぶ趣味である。

先ほども述べた通り今時の少年たちには少し合わない。別に仲が悪いというわけではないが、長く話を続けていると出す話題に困りやがて当たり障りのない会話しか出来なくなってしまうのだ。




「やっぱり趣味を理解してもらうってのは贅沢なのかな・・・」


手に持った水晶を眺めながら呟く。


「あーあ、絶対楽しいよなぁ・・・。一緒に語ったり,見つけに行ったり、たまにテントを張って泊まり込んだりするの・・・」




想像してみる。

共に好きな鉱物やレトロな道具を交換しあったり暗闇の中焚き火にあたりながら採れた成果を火の光で照らし共に晩御飯を食べる。


そんなことが出来たのならばきっと自分の趣味はもっと楽しくなるだろう。もしかしたらその友達のおかげで新たな趣味や交流などもできるかもしれない。

しかしここは山の近くにある村でしかなく,若者の数も極端に少ない。村を出るでもしない限りそんなことにはあり付けないだろう。


「でもこの場所最高なんだよな~。自然や旧鉱山なんかもあってお宝だらけだし。」


しかしそんな環境である故に彼は踏み出せないでいた。

人は恵まれた環境にいるとそこから抜け出すのが難しくなってしまうものだ。探せばそれだけであらゆる場所から見つかる故に休日のほとんどを山で過ごす彼にとってそれらは手放すことが難しい事だった。



「此処よりも良くて尚且つ話の合う人のいるところとかないかなぁ~」



そう言って左に聳え立つ岸壁をピックハンマーでカンカンと叩きながら陸は一人ゴチる。現代日本にそのような都合の良い場所があるはずもない。

誰もいない道に石を小突く音が鳴り響く。すぐ側の崖から先には雄大な山々が広がっており、空気も澄んであたるが故の高い音だった。



カン  カン   カン    ガスッ





「ん?」



そんな中ふと、これまでの音とは違う鈍い音が聞こえた。腕から伝わる感触もこれまでの硬い岸壁ではなく、まるで少し固まった砂利の中に沈めたかのような妙な手応えに思わず陸は視線を向けた。




「あれ?岸壁崩れてる・・・?新しい釜でも掘り当てちゃったかな」





ラッキーと思いつつ陸は立ち止まりカバンの中から先の折れ曲がったマイナスドライバーを出すと慎重にその穴を広げていった。

やがてその穴が自身の腕が通るかというくらいに広がるのを確認したら、迷いもなくそな中に腕を突っ込んだ。




「おおお!めっちゃ広いこの釜!これはとんでもないサイズのが眠っている予か・・・ん?」




しかししばらく弄った際に陸は疑問符を浮かべた。

というのも大喜びで中にある鉱物を回収しようと伸ばした指の先には、何故か水晶特有のカクカクとした感触が伝わらなかった。


代わりに伝わってきたのは、まるで卵の様にツルツルとした球体の感触。


「は?・・・え、なにこれ?」



ゆっくりと手を戻して中からその球体を取り出す。

黄土に塗れたそれを陸は裾で軽く拭き取るとその下から現れた物に思わず目を見開いた。


「うわぁ・・・」



それは、鉱物というにはあまりに違和感があり、かと言って人工物と呼ぶにはあまりに相応しくない美しい蒼色をしていた。


「・・・・・」


サファイアより薄く、しかしアクアマリンよりもはっきりとした色合いのそれは、照らされる太陽光にあたり柔らかくも人を見るものを引き寄せる輝きを放つ。




この石は一体?

じっと見つめ続ける陸は思わずごくりと喉を鳴らす。本来石英しか採掘されないこの山において、岩の中から出てきたこれは一体?


誰かが埋めた?否、この様な石をわざわざこんな道外れの、しかも崩れ掛けだったとはいえ岩の中に入れておく意味がない。



「天然石なのかこれ・・・と、とりあえず洗い流さないと!」



陸はペットボトルの水で球体を洗い流す。

土を流すと改めてわかる。野球ボールほどの完全な球体をしてるそれは、水で濡れたことで雫にまでその輝きを映し出す。


そんな中、ふと陸は違和感に気づいた。




「・・・あれ、なんか中心に光が?」



美しいその宝石の中心、本来青い輝きを放つはずの石の中心で先ほどまではなかった光が見えた。

否、光ではない。

それはまるで、電気の様なーーーーー








それを確認した次の瞬間、石から光が放たれ陸の体を包み込んだ。

































で彩られた大地の上、そんな大地に引かれた長い通路の上を一人の少女が歩いていた。

髪は茶色のゆとりショートヘアに青い勝気な瞳。皮のブーツにホットパンツ、上着に丈夫そうなジャケットを着込んでいる。それだけ見れば多少派手なスポーティーな少女と見ることができるだろう。しかしそのジャケットからは機械仕掛けの様なハサミや金槌、さまざまな小道具が下がっている。

そしてその頭には何やら複雑なギミックのあるゴーグルをかけていた。


「あーあ。せっかく今日は街に出てみようとおもったのになぁ・・・」

 

 

彼女の名はアイーシャ。機械仕掛けの山々近くの街で生まれ育ってきた年頃の女の子だ。彼女は片手にバスケットを持ちながら草はらの道を歩いていた。バスケットの中身はパン。出来たものを遠くに住んでいる祖父に渡すため両親から頼まれたのだ。

年頃とはいえまだ子供。遊んでいたい時期なので面倒に感じてしまう。

 

「ま、仕方ないっか。早く終わらせて街に出よっと」

 

しかし切り替えは早い方なので気を取り直すと再び早足で祖父の家に向かっていった。

 

どのくらい歩いただろうか。太陽が自分の真上に差し掛かった頃、彼女は祖父の家の近くにある花畑についていた。花畑は風によって花びらを空に飛ばし幻想的な光景を生み出している。

彼女は見慣れているためかあまり関心を示していない。

だからこそ、それに気づいた。

 

 

「・・・人?」

 

 

 

花畑の真ん中で寝ている、一人の男に。

 

 

 

 

 

 

 

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