第7話 大人の人に教わる

 前回のあらすじ

 女神さまが女神さまの仕事をしました。


 レイが異世界転生してからようやく2日が経った朝の話。


「…また夢を見てしまった」

 相変わらずの元の世界の夢だ、いい加減慣れないといけないのに。


「女神さま、怒ってないだろうか…」


 昨日は寝る前に女神さまが部屋に訪れたのだけど、

 一緒に寝ましょうとか言い出したから部屋から閉め出したけどやり過ぎたかもしれない。


 着替えてから部屋を出ると、向かいの部屋から女神さまが出てきた。

「あ、レイくん、おはようー」

 女神の方の衣装ではなく、昨日の夜に訪れた旅衣装だった。


「おはようございます……めが……じゃなくて、フラウ姉さん、昨日のこと怒ってない?」

 どうみても女神さまが悪いけど、今の関係から悪化するのは嫌だ。


「昨日は私が強引だったから…

 それにああいうのは順序を守らないといけませんし?」

「何を言ってるのかよく分かりません」

「勿論添い寝の話ですよ?」

 普通姉弟で添い寝したりしません。偽姉でも別の意味でダメです。


「ところで姉さん、わざわざ何で服を変えたの?」

 今の服も似合うけど、最初の服は女神さまっぽくて良かった。

「えーっとね、この衣装だと姉弟ぽいかなって、どう?」

「似合うけど…」

 そんなに姉弟っぽいかなぁ?

 というか、昨日姉さんがあの服を着ていたくないって言ってた気がする。

 もしかしてそれが理由で着替えたんだろうか。


 二人で階段を降りて、食堂に向かうとアドレ―さんが待っていた。


「アドレ―さん、おはようございます」

「おはようですー、いい天気ですねー」

「おう、おはようさん」

 アドレ―さんは食事を終えたのだろうか。

 その割には剣を持っていて、まるで今から戦いに行くような格好だ。


 僕がそんなことを思ったのが分かったのだろうか、

 アドレ―さんは続けていった。

「坊主、食事前の運動といかないか?」「え?」


  ◆


 何かと思えば、昨日やった周囲の見回りだった。確か朝もやってるって言ってたね。

 女神さまは後で起きてきたエミリアと先にご飯を食べに行ってもらった。


 服装はそのままで剣だけ借りてアドレ―さんと見回りに向かった。

 ちなみに剣はアドレ―さんのに比べてかなり小ぶりで比較的軽めの剣だ。

 それでも昨日は全然扱えなかったけど。


「坊主、これも付けておけ」

「なんですか? この腕輪、ちょっとカッコいいかも…」

 少し古びていたが、赤と白の装飾の武骨だけどかっこいい腕輪だった。


「今日はそれを付けて見回りだ

 危ない時は仕方ないが、スライムにあったら基本的に剣だけで戦ってくれ」

 うん?どういうことだろう


 その答えはスライムとの実戦になったらすぐに分かった。

「なにこれ、凄く剣が振りやすい!」

 昨日は剣が重過ぎてフラフラで全然当たらなかったけど今日はちゃんと当てられてる。


「よしよし、剣を振るなら最低限筋力はいるからな」

 アドレーさんが渡してくれたのは<パワーリスト>という装備だった。

 装備者の力を底上げしてくれるらしい。冒険者時代に手に入れたものだそうだ。


「とはいえだ、剣は力だけで振るもんじゃあない

 無理のない姿勢で不自然に力が入ってないように構えて重さで振り抜くようにするんだ」

 言われてやってみるが中々上手くいかない。

 練習していると確かに無駄に力を入れ過ぎてて疲労していたのが昨日の自分だったように思える。

 お蔭で昨日と比べてスライムにちゃんと当てられた。


< 剣の心得 Lv0を獲得 >

< レイはLv4に上がった >


 その後、見回りから戻って、少しの間アドレ―さんに稽古を付けてもらった。


「今はスライムばっかと戦ってるが、モンスターはそれだけじゃない」


「例えば、子鬼、動く死体、一角獣などだな。

 武器を持つ相手、心臓を刺されても死なない敵、強力な得物を持つ獣だ。

 近くに居る敵でもこういう奴らもいる。

 逃げるにしろ戦うにしろ最低限剣は使えるようにしとけ」

 あ、アンデッド…ゾンビって本当に居るんだ…。


 色々剣の振り方を学んでから、少しアドレ―さんと実戦する。


「アドレ―さん、お願いします!」

「おう、来い坊主!」

 僕とアドレ―さんは訓練用の皮の鎧を着込んで怪我しないように実戦を行う。


 アドレ―さんに打ち込んで来いと言われてそれを繰り返す。

 さっき使っていた剣なので危ないと思ったのだが、そもそもアドレ―さんに掠りもしなかった。

 ちなみにアドレ―さんは安全な木の棒を使ってるので、隙が出来たら容赦なく切り込んできた。


 一通りアドバイスを貰ってからアドレ―さんは自分の仕事に戻った。

 僕はランニングと100回程度素振りをしてクタクタになってようやく朝食にありつけた。


「レイくん、頑張ったねー」

「本当に疲れたよ……滅茶苦茶しごかれた気がする」


< 剣の心得 Lv1を獲得 >


  ◆


「や、朝から大変ですねー」

 食堂に行くとエミリアがくつろいでいた。


「エミリアおはよう」

「レイ、おはようございます。朝から鍛錬ですか?熱心ですねぇ」

 見られていたのか…結構アドレ―さんにボコボコにされてたから恥ずかしい。

 エミリアの向かいの席に着く。


「アドレ―さんの戦い方見てたら憧れちゃって…」

「まぁ男の子ですもんね、あの人は結構なベテランなので良い経験だと思いますよ」

 エミリアのお姉さんとアドレ―さんは知り合いなんだっけか

「アドレ―さんがくれた装備で何とか剣は振ることが出来るようにはなったんだけど…」

 本当に振れるようになったってだけな感じだ。


「ふう、さて頂きます」

 湖魚の村なだけあって湖から取れた魚料理だった。

 異世界では今の所電気製品は一度も見たことがない、昨日の部屋でもランプで明かりを灯していた。

 それでも料理の味は元の世界と比較しても遜色ない。味付けもしっかり利いている。

(異世界の料理と聞いて不安だったけど、美味しくて良かった…)


「ニヤニヤ……」

 さっきからニヤニヤ顔したエミリアにずっと見られてるんだけど

「何…?」

「いえいえ、美味しそうに食べてるものなのでつい‥」

「実際に美味しいもん、というか見られてると恥ずかしいよ」

 鍛錬してたせいで3時間くらい朝食が遅れてたから空腹だったってのもある。

 笑いながら「それは失礼しました」とエミリアだった。この子も可愛いんだよね…。


「あ、そうだ」とエミリア

「さっきアドレ―さんにさっき装備貰ったとか言ってませんでしたか?」

「ああ、これのこと?」と僕は自分の右手首に嵌めた腕輪を指さす。


「ちょっと見せてください? ふむふむ…」

 興味深そうに腕輪を見ながらステッキを取り出す。もしかして…


<鑑定Lv3>チェック


 パワーリスト(R+) 力+10 命中+3

 近接系の武器の心得スキルLv3以下の場合のみ習得速度が20%上昇


「なるほど、魔法使いの私にはあまり縁のない装備ですねぇ」

 僕にとってはとても良い装備だから助かってる。


「エミリア、今日は依頼の場所に行くの?」

「魔力が回復しきってないですからまだ行かないですよ。

 アドレ―さんもまだ数日予定が詰まってるらしくて行けそうにないです」


 その後は数日は僕たちは周辺の調査だけ行った。

 例の廃鉱山が元凶とは限らないのでまず近場から湖に繋がりのある場所を探すようだ。


 その間、アドレ―さんは忙しかったので調査には同行しなかった。

 ただ、それでも僕には熱心に剣の稽古や戦闘の心構えを教えてくれていた。

 そのお陰か、最初に比べたら大分まともに剣を振れるようになった。


 それから数日後―――

 朝起きたら姉さんは何処かへ出かけていなかった。

 鍛錬を終えて一人で食堂に戻ってくるとエミリアが朝食を摂っていた。

 すっかり魔力を回復したようだ。もうすぐ廃鉱山へも調査に向かうらしい。


 折角なのでエミリアのことを聞いてみることにした。

「エミリアはレア装備に拘りでもあるの?」

「お、訊きますか?確かに私はレアハンターを名乗ってたりしますから」

「レアハンター?」 

「まんまの意味ですよ、希少なアイテムや魔道具を収集してます」

 名前の通りかな。ただ、魔道具って何だろう。


「魔道具って?」

「魔法の効果がある装備とか、あと魔法の本とかですね。

 それにしてもレイって本当に何も知らないんですねー」

「確かに知らないけどさぁ…」


 異世界に来たばかりだもん、知らなくて当然だよ。

 と言ってもエミリアにそんなことは言えない。


「まぁ私も最初からレアハンターってわけでもなかったですけど」

「ふーん、最初は違ったんだ?」

「最初は魔法学校で魔法を学んでいて、

 その後は姉に憧れて冒険者になっただけでしたからね」

 魔法学校とか冒険者とか、そういうの聞くと本当に異世界っぽいな。


「切っ掛けは何だったの?」

「私が来たゼロタウンという街は冒険者ギルドばかり有名ですが、

 あそこは色々な冒険者の人が集めたレアな装備が入手できる場所でもあるんです」

 元々僕たちが行こうとしてた場所がそこだったね。


「そこで興味が出たとか?」

「当たらずとも遠からずですね。ヒントは<冒険者>ですよ」

 冒険者…?うーん、そもそも冒険者って何をする仕事なんだ?


「魔物退治?」

「目的ではないですね」

「名前の通り冒険するとか?」

「近いです!」


 うーん…あと何だろ?


「…どこかの迷宮とか、えーと、ダンジョン探索?」

「正解です!そこで凄い魔道具が手に入りまして、

 それからレアなアイテムを集めるのが趣味になってしまったんですね…」


 楽しそうだけど難儀な趣味だなぁ。


「ところで、その凄い魔道具に興味ありません?」

 エミリアが目をキラキラさせながら僕に聞いてくる。

(聞いてほしそう…)

 自分の趣味って人に見せて自慢したがる人って多いよね。

 でも興味はあるから乗ってみよう。


「興味あるなぁ、見せてほしいかも」

「これです!」

 どこから出したのか、エミリアはいつの間に重そうな本を持っていた。


「…これが魔道具?」

 どうみてもただの装飾の豪華な本にしか見えない。

「これは魔導書です」

「魔導書…って、魔術とか錬金術とか死霊術とかが記されてるとかいうあの魔導書!?」


「この本には解読が難しい魔法が記されてるみたいですから合っていますよ。

 それ以外に色々な能力が備わっていまして、非常に強力な装備でもあるんです」


 試してみましょう。 <鑑定Lv3>チェック を使用する。


 鼓動する魔導書(SSR)MP+40 魔法命中+10 魔法攻撃力+15 存在秘匿Lv??

  中級以下の攻撃魔法使用時、消費MPが3/4になる

  他、詳細不明


「SSRって? 強いことは分かるけど詳細不明とか曖昧だね」

 MPは魔法力の事だろう。それと魔法関連のステータスだけ見ても相当強いのは分かる。

 ただ存在秘匿っていうよく分からない効果と説明が足りてないのが気になる。


「SSRはスーパーシークレットレア。長いのでSSRと呼んでください。

 詳細が分からない部分が多いのは私の鑑定の精度がまだまだなので……」


 ……僕の女神さまから貰ったペンダントはどうなんだろ?

「ねぇ僕のこれも鑑定してもらいたいんだけど」


 首に掛かっていたペンダントをエミリアに見せる。

 昨日寝るときに何故か外せなくて、今回も首に付けたまま見てもらう。


「良いですよ。<鑑定Lv3>チェック


 ペンダント(EX)スキル習得率2倍(?) 経験値1.2倍(?) 精神異常耐性Lv5 存在秘匿Lv??

  装備変更不可、他詳細不明


EXエクストラ!?見たことないランクですよ!」

 しかもさっきより更に情報が少ない…。というか装備変更不可って呪われてるんじゃ…?

「レイはこんな凄そうな装備をどこで手に入れたんですか?」

「あー、いや‥」

 フラウお姉ちゃん(女神さま)に貰ったとは言い難い。

「ここよりずっと遠い場所で貰ったものだよ。ちょっと僕にも説明できないけど」

 うん、『転生の間』とかいうよく分からない場所で貰ったから間違ってはいないはず。


「変わった姉弟だと思ってましたが、謎だらけですねぇ」

 疑っているようなエミリアの言葉だが、別に不信感があるというわけではなさそうだ。


 あまり突っ込まれても困るから話を変えることにした。


「ところでフラウ姉さん何処行ったか知らない?」

「今、唐突に話題変えようとしませんでした?」

 何で分かったんだろうか。

「フラウさんなら一緒に食事してましたけど、薬草取りに行くとか言ってましたよ」

「薬草ってどこで取れるの?」

「村の中にはないので、多分外だと思います」

「え、一人で大丈夫なの?」

「私も危ないから止めた方がって言ったんですが、

 大丈夫大丈夫ってそのまま行っちゃいました」


 食事を終えて席を立つ、女神さまが心配なので様子を見に行くことにした。

「ちょっと探してくるよ」

「レイも外に行くんですか?まぁ最近鍛錬してたから大丈夫かな?」

 心配してくれてるのだろう。大丈夫と言って僕は外に出ていった。


 外を出ると、外は曇り空だった。

「雨降るかもしれないし、早いところ探しに行こう」

 そうして僕は村の外へ出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る