第二夜 2

家にたどり着くと、何もかもを放り投げてベッドに潜り込んだ。深く深く、自分を綿で包み込む。

 いきなり現れた男に確証のない現実を言われて信じる方が、無理だ。

 身をよじると、ポケットに入れていたスマートフォンが、冷たく当たる。誰かの声が聞きたくて、アドレスを指で滑らせた。まず、千秋に電話をかけてみたが出ず、次にかけたのが花蓮だった。


「もしもーし? どしたの?」


 いつもと変わらない脳天気な声に目の前がゆがむ。


「何かあったの?」


 話そうと口を開く。が、涙声になってうまく話せない。


「落ち着くまで待ってるよ」


 その一言で号泣となった。


 猫になって毎夜毎夜、塀や屋根の上を歩いていたなど、誰が信じるだろうか。

 変人扱いこそされ、事実などと受け取ってもらえるはずがない。挙げ句の果てには、薄気味悪い男と、嫌みな男が「仲間だ」などと言い始める。どう伝えていいか分からず、高ぶった感情がせきを切って流れ出た。

 ひとしきり泣き尽くすと、潜っていた布団から顔を出した。白いまぶたがうっすら赤く腫れ上がる。その熱っぽさを感じると、妙に軽くなった。


「落ち着いた?」

「……うん」


 花蓮の温かい声が、染みる。


「眠れそう?」

「うん。……おやすみなさい」


 真下にある灯りのつかない窓辺を気にしながら、白と黒の猫はじっと月を見つめていた。


 翌日、銀次とは口をきかなかった。

 ゆきが避けていることを察し、銀次もあえて触れようとはしなかった。ただ、学校では銀次、下校後は真がそれとなくついてくる。


 わかっているが交わらない。そんな日が何日も続いた。

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