知恵の聖霊

光之空

α その運命

西暦2030年。人類はまた新たな段階へと歩みを進めた。長らく、空想上のものだと考えられていた聖霊の存在が確認されたのだ。最初の《感染者》は東京に住む、50代の男性だった。聖霊は、単体ではこの世界に存在することができない。だからこそ今までわからなかったのだが、その聖霊が人間を媒体とすることで実体を得て、顕現することができるのだ。男性に憑いた聖霊曰く、

『我がここへ来たのは他でもない人間たちのためだ。貴様らに進化の機会を与えてやろう。喜べ!』

一体どう言うことなのかと男性が訪ねると、

『我ら聖霊が貴様らに憑けば、貴様らはさらに上の存在になれるのだよ』

こうして、世界中の人間に聖霊が憑いたのだった。聖霊が憑いて、何が変わったのかというと、真っ先に政府各所が崩れた。上へ上へと目指していた議員たちが、議員同士で争い始めた。その波は民間人にも及び、力を手に入れた人間はそれぞれの望むものを手に入れようとした。しかしその中にも争いを望まない者もいたのだが、聖霊自体の特徴として、生きるには食べねばならなかった。同じ聖霊のヨウブンを。

必然的に世界は争いに争いを重ね、混沌としたのだった。


今日も僕は本を探す。何故かというと僕の中の《なにか》がそれを求めるからだ。

『おい!今日はどんなことを教えてくれるのだ?ワレは楽しみだぞ!』

最初に声をかけてきたのは11歳のときだった。

『ふむ?これは一体どういうことなのだ?なぜそうなる?』

同じ年代の人のなかにも、他の人には聞こえない声が聞こえるという人がいたので、さして驚きはしなかった。

「これはね......」

と、そのときに説明をしてしまった。それが運の尽きだった。失敗だった。それ以降ずっとことあるごとに『なぜなにどうして』と聞かれた。そして僕だけでは説明できない段階になってようやく本に対して興味を持ち始めたのだ。ありがたかった。

「今日はこれから図書館に行く。数えたことはないけど、ざっと1000冊はあると思うよ」

『それは楽しみなのだ。だけどなワレ、少しお腹が空いたのだ。読むまえに少し腹ごしらえといこうぞ?』

「しょうがないなぁ。誰かいたらそうしよう」

いつも外出しているときはろくに人と出会わなかったので、そうして誤魔化せていたが、今日に限ってはそういかなかった。

「おおい、子どもじゃねえか、ダメじゃないか、こんなところにいたら......俺みたいな悪い大人に『喰われちまうぜ?』

「ちょうどいいね、お昼ご飯、あいつでいい?」

『いいのだぞ。アレぐらいなら2ヶ月は持つ』

「じゃ、いつも通りお願いします」

『任せるのだ!』

そう言って、身体の操作権を譲る。

「ふぅ、お前、なかなかに弱そうだな?簡単に食べれそうでいいのだ」

「あぁ?なに言ってんだ?坊主、お前はこれから俺に食べられる『んだぜ』

「んぅ?お前、全然乗りこなせてないな?仕方ないなぁ、全く。ワレが引導を渡してやるのだ!」

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