第25話『国王陛下との謁見』



 ……食事を終えた後も何をするでもなく、ベッドの上に座り込んでいると、再び扉がノックされた。


「えっと、どうぞ」


「……失礼します。お客様をお連れしました」


 返事を確認した後に扉が開き、主人に続いて白金の鎧に身を包んだ騎士が部屋に入ってきた。


 お客さんだと聞いた瞬間、ゼロさんじゃないかと期待したから、少しがっかりしてしまった。


「こんな格好で驚かせてすまない。私はラグナレク王国・第一騎士団所属のアグラスという者だ」


 部屋に入ってきた騎士は兜を脱ぎながらそう名乗る。


 王国騎士団が何の用だろうと思いつつ、俺もルナもベッドから降りる。その立派な身なりのせいか、気圧されてしまう。


「君達がセレーネ村襲撃事件の生き残りで間違いないね?」


「……そうですけど」


 『襲撃事件』という単語に、俺も思わず表情が強張る。


「先日の一件は国王陛下のお耳にも届いていてね。是非とも話を聞きたいと申されている。急な話で申し訳ないが、ご同行願えないだろうか?」


 ……そこまで話を聞いて、俺とルナは顔を見合わせる。


 勝手な想像だけど、威圧的な王様と沢山の兵士、大臣たちに囲まれて、色々な質問をされる場面が思い浮かんだ。俺もルナもただでさえ気落ちしているのに、そんな場所に引っ張り出されるのか……。


「……国王陛下は話を聞かせてくれるのなら、君達を身の安全を保障するとも申し出てくれている。悪い話ではないと思うが」


 俺達の様子を見て、思い悩んでいると思ったんだろうか。俺たちにとって利益になる条件も付けてきた。


 結局少し考えて、身の安全を保障してくれるなら……と、俺とルナはその話を了承することにした。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「それじゃあ行こうか。王宮はこっちだよ」


「騎士さん、よろしくお願いします」


「気軽にアグラスと呼んでくれて構わないよ。お嬢さん」


 そう言って朗らかに笑うアグラスさんについて、俺達は宿を出発する。時間帯としては、昼を少し過ぎた頃。天気も良いし、大通りはたくさんの人でごった返していた。


 そんな中、着の身着のまま出てきた俺とルナの格好は明らかに浮いていた。服はボロボロだし、あちこち傷だらけ。通り過ぎる人々は皆、物珍しそうな視線を俺達へ向けてくる。


 その視線から逃れるように、アグラスさんの後ろに隠れながら進んでいると、後ろを歩いてたルナが俺の手を握ってきた。その掌からは何とも言えない不安が伝わってきて、俺もしっかりと握り返した。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 ……やがて立派な城門に辿り着き、門番の兵士とアグラスさんが何やら話をする。


 話が終わると、アグラスさんと違って皮の鎧に身を包んだ彼は俺たちへ一礼し、直後に道を開けてくれた。


 そして案内されるままに城の中へ歩みを進め、煌びやかな装飾で飾り付けられた廊下を歩く。やがて長い階段の手前でアグラスさんが足を止めた。


「……この先の謁見の間に国王陛下がいらっしゃる。くれぐれも、ご無礼が無いようにね。お目通りしても、許可が出るまでは顔を伏せているように。いいかい?」


「わ、わかりました」


 そう言うアグラスさんの顔には、これまでと違って僅かに緊張の色が見えた。どこか現実感の無い中をここまで進んできた俺達も、今から王様に会うという実感が急に沸いてきて、俺とルナも反射的に頭を下げて、横並びになって赤い絨毯が敷かれた階段を進み始めた。


「……王様、わたし達の話を信じてくれるかな」


「村が襲われたのは真実なんだしさ。その経緯をきちんと説明すれば、きっと信じてくれるはずさ」


「そ、そうだよね。失礼なこと言って、怒らせないようにしないと」


 こんな状況だけど、ルナは礼儀作法の方を心配しているみたいだった。ルナらしいと言えばルナらしいけど。


「うぅ、緊張するよ……深呼吸。深呼吸」


 隣で必死に深呼吸している姿を見ていたら、なんだか俺まで緊張してきた。これは、ルナの緊張がうつったかな。


 ……そんな矢先、急に奥行きが広がった気がした。どうやら、謁見の間に到着したらしい。


「……国王陛下、セレーネ村の者をお連れしました」


「ご苦労。アグラス、お前は下がって良い」


「はっ」


 アグラスさんが一礼して下がっていき、静粛が訪れる。顔は伏せたままだけど、予想に反してこの場には俺達と王様しかいないみたいだ。


 でも、その空間独特の空気に圧され、更に緊張してきた。なんか変な汗が出てる気がする。


「……お前達、顔を上げよ」


 その時、随分高い所から声が聞こえた。俺は顔を上げる前に大きく深呼吸をする。


 ……それにしてもこの王様の声、どこかで聞いたことあるような――


「へぇっ!?」


 意を決して顔を上げた時、思わず素っ頓狂な声が出てしまった。


「ちょっとウォルスくん、いきなりそんな声出したら失礼だよっ……国王陛下、ご機嫌麗しゅ……ふええっ!?」


 俺の声を聞き、慌てて顔を上げたルナも同じく妙な声をあげる。


「……おいおい、何だその反応は。予想通り過ぎて笑っちまうぜ」


 そんな俺達の反応を見てか、玉座から再び聞き覚えのある声がした。


 思わずその姿を二度見、いや、四度見くらいした。身なりこそ違うけど、あの声と顔は間違えようのない――


「ゼロさん!?」


 玉座に頬杖をついて座っていたのは、まさにゼロさんその人だった。


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