第28話 作戦会議は食堂にて




「ったく、お前はまた何かお尋ね者になるような事でもしでかしたんじゃないのか?」

「……むぐむぐ」

「知り合いじゃないんだろう?」

「……もぐもぐ」

「で、どうするんだ? あいつ、絶対執念深いタイプだぞ?」

「……パクパク」

「……って、お前は少しは人の話を聞けよ! さっきから食ってばっかりだろうが!」


 ナツメの話をBGMに、一心不乱に食事を続けているとナツメは急に苛立ちを爆発させた。



 ギルドに呼び出されて、ギルド長とクレアさんの話を聞き、報酬の50万ゴールドを貰ったのは今朝の事。


 それから天性の守銭奴に出会い、お金を巻き上げられそうになりながら辛くも逃げ出し、ちょうどお昼時という事で、大将の店で昼食を取りながら作戦会議と洒落込む事になった。

これが、今日これまでのハイライトだ。


「話を聞けと言われても、目の前に美味しそうな食べ物があったら、話をそっちのけで食べるのが普通でしょう?」

「少しは申し訳なさそうにしろよ! 普通の食事で蟹食ってる奴みたいになるな!」


 大きな肉の塊を呑み込んで、何を今さらと言えばナツメが勢いよくテーブルに手をついて、ガチャンと食器が音を立てる。


 これがここに最初に連れて来られた時のように、混雑する時間を外していたならば、きっと大将に怒られていた事だろう。

だが今は、お昼時真っ只中。

安い、旨い、早いと三拍子揃ったこの店には探索者たちが多く詰め掛けている。


 探索者というのは、往々にして騒がしい生き物だ。

素面しらふの私たちが少々騒いだところで、昼間からエールを煽っている荒くれ者共の足下にも及ばない。



「せっかく美味しい料理を一番美味しい時に食べない方が余程罪深いわ。食べないならそれ、貰うわよ?」

「二度も同じ手口に引っ掛かるかよ」

「チッ……」


 せっかく私が美味しく頂いてあげようとしたのに、ナツメは私のフォークの先を避けるようにして皿を自分の方に引き寄せた。

そのまま苛立ち紛れにガツガツと鴨肉のソテーを平らげていく。


 ふんっ、一切れくらいくれたっていいじゃないの。


 そんな私の悪態も空しく、ナツメはあっという間に完食した。

口の端に付いたソースを親指で拭い、ぺろりと舐め取る。



「大将、お茶!」

「あいよ!」

「……ふぅっ。さて、いい加減いいか? 作戦会議だ」

「いいわ」


 食後にサービスのお茶を淹れてもらい、それをひと口啜った後、ナツメは話を再度切り出した。


「あいつがどんな変人奇人だろうが、俺たちには関係ないし、興味も無い。それより今回問題とすべきなのは、奴が何の目的で俺達を捜していたか、だ」

「そんなの、あのお金への並々ならぬ執着心から言って、私に対して謝礼金その他諸々を請求しようとしている他考えられないわ」

「いや、それはおかしいだろう」

「どうして?」

「だってあいつは、ギルドを訪れた目的をはっきりと【異端の求道者たちヘレティカル・シーカーズ】の人間を捜していると言っていたんだ。お前がサイラスにぶつかったのは、奴のその行動の途中でたまたま引き起こされた、云わば偶発的なイベントに過ぎない」


 サイラスが【異端の求道者たち】を捜していたのは、私が彼とぶつかる前から。

そうすると、あの時の謝礼を巻き上げる為という理由では話が通らない。


 時間軸を考えれば、確かにナツメの言う事が正しく思えてくる。


「じゃあ、サイラスがひと芝居打っているという可能性は……?」

「最初から俺たちの顔を知っていて、金を巻き上げる為にわざとぶつかったっていう線か? それもちょっと考えにくいんだよな」

「何でよ?」

「いや、これは論理的ではない。論理的ではないけれど、あの性格でそんな回りくどい事をするとも思えないんだよな」


 そう言われて思い出すのは、お金の催促をしてくるあの手だった。


 しつこい、執念深い。

だけど、何度も繰り出されるあの手は同時にかなりせっかちな印象を私に抱かせていた。



「最初から俺たちの名前を知っていて、当たり屋紛いのただの金目当てだっていうのなら、あそこであのギルド名を出して、訊ねる事に意味は無い。それに、何度もギルドで迷惑行為をしているようだから、ギルド内であの阿漕な商売が出来ない事は知っていた筈だ」

「ターゲットを絞って金を巻き上げるような用意周到なタイプなら、ギルドの外で待機していた……?」

「そう、そういうことだ」



 そろりと、ナツメは熱いお茶の二口目を啜る。

フーフーと息を吹き掛けて慎重に口を付ける辺り、彼は猫舌のようだ。



「じゃあ、他に何を狙っているというの?」

「……さあな。俺もあいつ自身になれるわけじゃないから、そこまでは分からない」


 散々勿体振っておいてわからないの一言で片付けてしまうナツメ。

そんな彼に確かな殺意を覚えたのは言うまでも無かった。





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