虚ろな夜

暗がりの中、僕はただ歩いている。先導する彼の後ろを無心でついて行く。


人の心を持つ機械、そういえば聞こえはいいが実際はそんな便利なものじゃない。あいつに心なんて分からない。まして、『定義』だなんて言っているうちは彼にそれを解することは出来ない。


然し、そういう自分はどうなのだろう。人の心を理解していると呼べるのだろうか。僕は、心を理解してもそこに共感を覚える事が出来ない。それは致命的な欠陥で、傍から見れば悪魔そのものなのではないだろうか。


(その悪魔も、今はただの追われる身に過ぎないけどね)


内心で毒づいたが、そんな皮肉もあまりに虚しく胸中に響くだけでなんの生産性もない。今、そんな無駄を楽しめる余裕があるのならどれだけいいか…


そう考えると、今自分は笑顔でいるのが正解だと言える。だが、現実はそうも言っていられない。理想なんて捨て置いて、僕は自分が生存できる最善策を打たなければいけない。


「ラルフ。まだか?」


「まだしばらくかかるな」


しばらく、そんな曖昧な言葉が返ってくる。やはり機械に心なんて与えない方がいい。愚行と思われても仕方ないことだ。


所詮、機械は合理性を以てその存在意義としている。それに対して心なんて言う合理性とは程遠いものを与えては当然価値は下がる。手に負えなくなるかもしれない。その可能性を考えれば誰もそのような無謀な事に着手しようなどとは考えないはずなのだ。


だが、誰かは知らないがこのようなスクラップを生み出した。


このスクラップに価値があるかどうか、僕は知らないし、知ろうと思わない。ただ、製作者は間違いなく禁忌を犯している。


まぁ、それも僕が知る由もないが。


しばらく歩いていると、彼は住宅の立ち並ぶ通りから、細い裏道へ入っていく。


「こんな道聞いてない」


「何者かにつけられてる。戦闘は避けて逃げるべきだ」


その言葉は合理的で反論する余地もない。なら、僕はそれに従うだけだ。


だが、何故か僕はその行為に途方もない嫌気を感じた。だからと言って僕がそんな嫌だと言う感情を発散する為になにか論理的な反論を彼に突き付けても、それはただ託けただけの物で、挑みに行くのは愚策なのは誰が考えてもわかる事だ。


(なら、僕は一生日の当たらない場所で、人の目を気にしながら生きるしかないのか…)


そんな絶望感が胸中に広がるが、それが生きていくための最善手で、世間がよく言う大人の選択と言うやつなのだろうと納得した。


何故だろう、裏道にいた鼠が僕らを憐れんでいるように感じる…まぁ、気のせいか。

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