5.女の戦いが始まる模様。








 ――そんなこんなで、翌日。

 高校に向かって歩いていると、見覚えのある小さな背中が見えた。



「ん、あれは知紘? おーい!」

「あ! たっくん、おはよう! 朝から会えるなんて、運命だねっ!」

「運命じゃないけどね。通学路なだけだし」

「ぶーっ!」



 声をかけると、しなだれかかるようにしてボケをかます。

 ボクがツッコミを入れつつ引きはがすと、昨日見たような子供のような不貞腐れ方をしていた。周囲の視線は気になったものの、友達だし仕方ない。

 そう思っていると、知紘はなにやら鋭い視線を他の女子生徒に向けていた。



「……なにしてんの?」

「たっくんはいま、青葉高校で一番の話題の男子だからね! 変な虫がつかないように、アタシが目を光らせてるのだ!!」

「は? ボクが、話題……?」



 ボク、なにかしたか……?

 そう思って先日からの記憶を手繰るが、クラスで質問攻めに遭ったことくらいしか思い当たらない。だからって、学校で一番の話題、というのは飛躍が過ぎていた。

 そうなると、何かしら問題を起こしたことになるが。



「まったく、身に覚えがない」

「優しいけど鈍いところ、好きになる人いそうだね」

「はぁ……?」



 考えていることを口にすると、知紘が苦笑いしつつそう言った。

 その表情を見る限り、嘘はないようだが。やっぱり、見た目が変わっただけで話題になる理由がちっとも分からない。

 そうしていると、不意にこちらへ声をかけてくる人があった。



「あ、杉本くん!」

「その声は、エヴィ?」



 通学路で会うなんて珍しいものだ。

 そう思って振り返ると、そこにはやはりエヴィがいて――。




「しゅばばばばばばばばばっ!!」

「え……?」

「ん……?」




 ――しかしすぐに、知紘が間に割って入るのだった。

 そして少女は、明らかな敵対心をエヴィに向けてこう口にする。



「クラスのアイドル、エヴィ・ミュラー……? まさか、アンタもたっくんを狙っている、とでも!?」



 それを真正面から受けたエヴィは、目に見えて困惑していた。

 だが、すぐに知紘の言葉、その意味を把握したらしい。

 スッと目を細めて、こう言うのだった。



「あぁ、なるほど……?」――と。



 冷たい眼差しだった。

 ボクは久しく見ていなかった彼女の一面に、ぞくりとする。

 でも、改めて思うのだが。彼女たちはいったい、なにを争っているのか。




「たっくんは、先に学校に行ってて?」

「うん、杉本くん。私と天野さんは、ちょっとOHANASHIしていくから」

「あ、はい……」




 とりあえず、触らぬ神に祟りなし。

 ボクは今ばかりは逃げようと決めて、その場を後にするのだった。



 



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