4.思わぬ原石が、ここにあった。
「えっとー……? どうして、ブランドショップに?」
「デートですから! お洋服を選ぶのです!!」
「でも、ここ男性服専門店では……?」
そんなこんなで、ボクとエヴィがやってきたのは流行の服を揃えたブランドショップ。その呼び方が正しいのか分からないのだが、いかんせん知識がない。ただ少なくとも、こちらが指摘した通り男性服や小物を扱っている場所のようだった。
何故そこが破けているのか、というツッコミを入れたくなるもの。さらには、学生が付けるべきではないサングラスなどもあった。
改めてハッキリ言おう。
ここは、ボクにとって完全アウェーだった。
「いいの! 今日は杉本くん、大変身作戦なんだから!」
「大、変身……?」
――ちょっと待て。
これは、もしかしてエヴィが暴走しているのではないだろうか。
そう思って彼女を制止しようとした、その時だった。
「あ、店員さん! この人に合う服をお願いできますか?」
「かしこまりましたー!」
「待って!?」
エヴィが店員を呼び、即座にボクの肩がガッチリ掴まれたのは。
「待ってくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
人の少ない時間帯、ということも相まって。
店内には、ボクの切ない絶叫が響き渡っていった……。
◆
「よし……! これで、少しは力になれたかな?」
エヴィは連行された拓海を見送って、小さくガッツポーズ。
そして、今日の目的を思い出していた。
「みんなに分かってもらえないのは、悲しいことだもん……!」
それというのも、クラスで一人でいる彼を慮ってのこと。
今さら言うまでもないことだが、エヴィは拓海の堂々としたヲタク姿に尊敬の念を抱いていた。しかし、これはまた別問題。
今日の昼休みに、クラスの女子に彼が言われていたことを振り返った。
――何考えているか、分からない。
それは、理解というものから程遠い言葉だった。
そもそもの距離感が、杉本という人物の人柄にすら気付けなくさせている。それによる孤独は、とても悲しいものだと彼女は考えたのだ。
「私も、もっと変わりたいけど……」
せっかく、友達になったのだから。
拓海とは少しで良いから、長い時間を過ごしたかった。
エヴィはそれをただ純粋に願っている。それにより、若干の暴走をしていたが。
「あ、お客様。お連れ様のコーデ、終わりましたよ!」
「……! 分かりました!!」
そこまで考えた時。
ショップ店員から声をかけられた。
エヴィはハッとして、店員の案内に従う。そして、
「ひゃぅ……!?」
カーテンの先に現れた彼を見て、思わず小さな悲鳴を上げたのだった。
「……あの、さ。色々と説明希望、なんだけど?」
「あわわわわ……!」
「エヴィ……?」
少し長めの黒髪を後ろで一つにまとめ、かけているメガネはいつものものから変わっている。黒縁の地味なそれから、フレームのないおシャレな色合いのものに。
それによって、良く見えるようになった円らな瞳は童顔な顔立ちによく合っていた。服装もそれを意識されているのか、どちらかといえば中性的なコーデだ。
一言で表すなら、超上級のショタだった。
ぱっと見は女子とも思えるほどの愛らしさが、そこにある。
杉本拓海という少年はまさしく、磨けば光る原石だと呼べる存在だった。
「かわいぃ……!」
「え!? ちょ、待って!! どこ行くの、エヴィ!?」
そして、その容姿はエヴィの好みド真ん中。
彼女はついに耐え切れず、恥ずかしさに顔を覆って逃げ出すのだった。
「な、なんだって言うんだよ……?」
取り残された拓海は、店員とは目を合わせずにそう漏らす。
身につけた服を身ながらため息をつき、ほんの少しの思案をするのだった。
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