その後の話2 リアの旦那

 今回は『第7話 ヒスパニックの人たち』に書いた、ランドリーで働くリアの旦那の話をしよう。

 第7話では、強制送還でメキシコに送り返された旦那をもう一度呼び寄せるためにリアは一生懸命働いている、というところまでを書いた。旦那の密入国の費用を稼ぐため、リアは仕事を3つ掛け持ちしていた。


 12月の半ばを過ぎたある日のこと、携帯電話で誰かと話していたリアが、「旦那が明日か明後日には帰ってくる!」と弾んだ声で話しかけてきた。話を聞いてみると、どうやら旦那は密入国に成功して、メキシコと国境を接しているニューメキシコ州を移動中だという。


 リアが嬉しそうに、旦那が国境をこえる前に撮ったという動画を見せてくれた。

点々とくすんだ緑が点在する乾燥しきった荒地の国境地帯。メキシコ側にいる旦那の周りには、同じ密入国者なのか、密入国支援のブローカーなのか10人前後の男女がまばらにいて、その向こう青空を背景にアメリカの国境警備隊のヘリコプターがわりと近くを哨戒しているという、なんとも生々しい映像だった。


 旦那は現在近くの農場で働いているらしい。1日12時間勤務で週6日、日給$125だという。アメリカの法律で決められている労働時間の上限は、1日8時間・週40時間である。完全な超過労働である。もちろん不法滞在者なので文句は言えないのだろう。


 そしてリアの旦那は、どうやら農場まで自分で運転して通っているらしい。もちろん不法滞在者が運転免許証をとれるわけがないので無免許運転である。なにかあって捕まったとしたらそのままメキシコ送りになるというのによくやるなぁと思うが、そのあたりの感覚がまさにメキシコ人である。


 ヒスパニック社会には密入国ルートから不法滞在やビザなしでも働けるという受け皿がしっかり確立しているようである。


 リアはブローカーに9000ドル支払ったという。

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